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天使のアルバイト-069-

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 男は店長を塀か何かの如く押しのけ、エリアへ向かおうとした。
 男が、エリアに、暴力を用いようとしていることは、明らかであった。
 人生の半分以上ケンカしてきたであろう男の拳である。常識で考えて、少女であるエリアに何も起こらないわけがない。
 しかし。
 エリアと男の間に店長が身を挺す。その動作は極めてナチュラルであり、恐らくはラグビーで培われた“体が覚えている動作”なのであろう。
 男の体が、体育会系の店長の接触を受けた。
 男の体は押しのけられるようによろめき、
 そのはずみで、自ら叩き付けたタマゴのパックに足が載った。
 流れ出ていた中身でパックが滑る。
 そこからは1秒も要しなかった。
「あーっ!」
 あられもない男の声に、布地の破けるビリビリという音と、ぐき、という、筋骨の変形するイヤな音が混ざった。
 そして、店内の時間が数瞬、停止した。
 それは、バレエのフィニッシュのように足を前後に180度まで広げて、ぴったりと床面に座った男。
 および。
「あ、ズボン破れてるぅ」
 子供の声。
「ぱんつぱんつー。パンツ丸見え~」
 別の子供。
 しかも、男はその姿勢のまま失神しており、口からは泡が出ている。
 衆目がドッと笑う。なんと男は自ら“股裂き”の如き状態になった上、ズボンが破れ、しかもそのまま失神してしまったのである。
 加えて、破れて(ピンクの)トランクスが覗く股の付け根には、タマゴの黄身と白身がべったり……。
 無様そのものであり、さすがのエリアもぶっと吹き出す。しかし同時に、こうなるとケガ人。恐らく、股関節が抜けてしまい、激痛ショックで失神、というところであろう。
「店長、救急車呼びます」
「あ、ああ」
 ヘタに動かすわけにも行かず、男はそのまま3分間、オブジェのようにそこに放置され た。そしてその姿勢のまま、担架に乗せられ、病院へと運ばれた。
 この間時、由紀子の母親が、“不思議”という以上の目線をエリアに向けていたが、彼女はそれに気付いていない。
 

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