天使のアルバイト-070-
11
翌日。
エリアは沢口家の車に乗って、その高原へと向かった。
都心を横切り、中央高速に入り、小仏を越えて山梨県内へ進行してゆく。
富士山をやり過ごし、甲府盆地を横切り、八ヶ岳を右手に見ながら長い坂を上って長野県。諏訪湖を望み、程なく諏訪インターチェンジで一般道へ。
一般道へ降りてすぐ、大きなドライブインがある。ただ、その店はどちらかというと著名な駅弁“峠の釜飯”の本家本元で知られる店で、当然、そこでも釜飯が食べられる。
「昼飯ここでいいかい?」
由紀子の父の提案に、後席の娘二人は一も二もなく頷いた。
「安くあげようと思って」
助手席母親が鋭く指摘し、観光ガイドブックを閉じる。母親としては、高原リゾートに良くある小洒落たレストランを狙っていたらしい。
「何を言うか。日本の食文化のひとつの到達点がこの釜飯だ。その昔、列車が碓氷峠を越えるのに1時間以上かかっていた頃、旅人に少しでも温かいまま食べられるお弁当を、という、発案者の日本人ならでは的発想によってできたのがこの釜飯だ。エリカちゃんは外国暮らしが長かったんだろ?だったらこうやって折に触れて日本の食文化の神髄を実体験させてあげるのが……」
「こじつけのいいわけもそこまで来ると芸術だね」
「何を言うか、事実だぞ」
父親は(ムキになった子どものように)胸を張った。ちなみにその通り事実である。釜飯伝説の力説を続けながらクルマを駐車場に入れる。
区分け線に対して車体が斜め。
「へたくそ」
娘の指摘。
「父親の面目丸つぶれ」
母親の的確な事態把握。
「うるさい。ほれ、者共、中入って席を取っておれ」
父親は車庫入れをやり直すようである。女性陣に先に下りるよう要請。
「はいはい。行こう、姫達」
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