天使のアルバイト-074-
男の子は……いた。
「ちょっと待ってて」
エリアは言うと、母子を離れ、確信を持って歩き出した。バス脇で運転手がタバコをふかし、ガイドと担任であろう、ドア脇でしゃがむ背中に話しかけている。
屋外オブジェを見ていた由紀子がエリアの不在に気付いた。
「エリカ?……あ」
由紀子は周囲を見回し、子供の傍らにしゃがんでいるエリアを見つける。
しかし由紀子はエリアを呼びに行こうとしない。
母親がチケット片手に戻って来る。
「どうしたの?……なるほど」
母親は由紀子の目線の先にエリアを見つけ、一人ゆっくり頷いた。
「由紀子」
母親は呼んだ。
「なに?」
「あの子……不思議な部分があると思うでしょ」
「うん。私もそんな気がして今ちょっと声かけづらい」
「それで……変なこと言うと思わないでね。私あの娘“超能力”みたいなもの持ってるんじゃないかって気がするの」
「は?やめてよ冗談。常識に照らして公正ってのが……」
「あの男の子、多分元気になるよ」
「え?」
由紀子は母親を見た。
「どういうこと?」
「店長に聞いたんだけどね。この夏……駐車場で車の中に赤ちゃん置きっぱなしって事件があって」
「聞いた。救急車呼んで大騒ぎ」
「あの子、ロックしてあるはずの車から赤ちゃん救い出したのよ」
「……うそ」
「しかも……もう息も絶え絶えだったんだって。茹でたみたいに熱くなってて。そんな赤ちゃんにあの子、『大丈夫だから、絶対に助かるから』って言いながら、人工呼吸して、抱きかかえて、何かずっとブツブツ祈ったって……」
「で?」
「助かった。お医者が奇跡だって叫んだそうよ」
「ふーん」
「他にもある」
「え?」
「カートの子供が暴れて落ちてさ、チラシのホルダー巻き込んで頭バッサリ切ったのよ」
「うえ……」
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