アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-036-
大好きなおばあちゃんへ。
美由紀です。ものすごい津波が気仙沼へ来るそうです。
逃げて。お願いだから逃げて。
友達が助けに行ってくれるというのでこのメールを書きました。
「判りました」
果たして老婦人はゆっくりと頷いた。
「お願いします……佐藤さん」
「え?あ、はい。ちょっとあの」
が、佐藤さんに手伝ってもらう必要は無い。既に大男が二人背後にいて、直ちに車椅子を運び出す。
ひときわ大きな音が南西、港湾方向より聞こえ、一同の目を奪う。
土煙。
津波がこの町にも到達し、破壊し始めた。
レムリアは感じる。一つ一つ、命の悲鳴が上がっているのを。
「こちら、他にお住まいの方は?」
表情を変えずに訊く。消えて行く意識、恐怖と後悔、叫び。
一瞬一瞬で消えて行く命が胸を打つ。ゆえに多くテレパス使いは精神の正常を保てない。
「いえ、さゆりさんお一人です」
地鳴りと地響き。家屋のがたつき。
余震ではない。津波で破壊された構造物が瓦礫となって波の先頭に集まり、更に他の構造物を破壊しながら進行し、振動と音を発する。
“ひとり”を促す間に失われて行く命の多さよ。相原が星空の下で言った言葉を思い出す『ブラックホール至近の一瞬は宇宙の果てでは永遠に等しい』……似たような時間の流れのずれを感じる。
そして、だからこそ、一人一人が意識を持ち、自分の力で逃げることが大切。
「これは余震?」
「津波が町を破壊している音です。佐藤さんが近隣で他に担当なさっている方がおいででしたらこの端末のマイクに向かって『大津波が来ます逃げて下さい』とお話し下さい。佐藤さんの声を使って避難を促します」
なお、レムリアがこの作業をしている間、大船渡と同じく携帯メールの通信に介入し、逃げろ、と、来るなの周知を図っている。
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