アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-037-
イヤホンにピン。船長から『デイケアセンターのサーバをハックして登録者住所を全部吸い上げた』。つまり、佐藤さんに何か言ってもらう作業は不要になった。
無論、違法であり非常処置である。本来は行政が無線通信手段を持たない世帯に対し、通信途絶の可能性を把握し、応じた警報器の設置などを推進すべきであろう。なおここで、携帯端末操作を義務づけるのは本質ではない。高齢で不慣れのみならず、病気その他で端末を扱えない可能性は誰にもありうる。
必要なのは確実に伝えることだ。一方的な放送・広報で良い。ただし、全員に確実に。
「了解。では各世帯回って広報しましょう」
レムリアは返した。
『おばあさまは保持ユニットへ。準備できています』
「了解。佐藤さんも一緒にどうぞ。ここも危ないというのがウチの連れ合いの見立てです」
佐藤さんの手を引き歩き出す。
「ちょ……」
佐藤さんには躊躇があったが、家屋の前の川の流れを見、それは解消された。
衝撃を受けたと知る。黒い水が逆流しているのである。津波のエネルギが既にこの小さな流れまで達している証左であった。
そして、黒い水の来る方向、川下には土煙。
港湾部は山のかげになる。その方向より濛々たる土煙が舞い上がり、家々を覆って行く。所々に火柱の姿も。
「これは……」
「ご家族が市街地におられますか?」
「いえ、私は独り身ですので」
「では乗って下さい。これはここまで来ます」
船腹から下ろしたスロープより佐藤さんを押し込む。
『乗ったか。波際から順次助けるぞ』
「了解」
船は2人を乗せ、浮上し、津波の先端へと向かう。
レムリアは甲板船首に立った。そして、山向こうから回ってきた、その様相を目にした。
上空から見たそれは、巨大な黒い液状の生命体であった。海から浸潤し、街を食らうかの如くであった。
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