天使のアルバイト-082-
店内では二人の子供が泣きやまない。
「あの……ごめんなさい。失礼しますね」
事態の急変が明らかなせいもあろう。母子らが子供を連れて店から出て行った。
「いいえこちらこそ。バイバイ」
エリアは一礼して手を振り、母子らを見送り、父親に目を戻す。
すると、
「で、病院はどこです」
父親の口にしたその言葉に、エリアは全身がびくりと震える。背筋がスーッと冷たくなって行く。
意識の中で、たった今訪れた事象と、例の予感めいたものとが、即座に合致を見る。寸分も疑う余地もなく、由紀子の身に重篤な何かが生じた。
エリアは思わず超感覚で由紀子の意識を探そうとしてしまう。由紀子ちゃん、何があったの由紀子ちゃん。
しかし、得られたのは、暗渠を見回す空しい感覚だけ。
動揺している自分を認識する。もはや、使いの者のなれの果てエリアではない。単なる由紀子の友人のひとり、友人の危機を知ったひとりの女の子エリカになっている事を知る。
父親がホワイトボードの予定表に走り書き。“体育で倒れる”“119番した”。
非常事態。
エリアは胴震いした。それこそ心身相関現象であろう。暖房が効いているというのに寒い。
唇が勝手に震えてガチガチ鳴る。手のひらに無闇に汗をかく。予感が意識一杯に増殖して存在感の腰を据え、恐怖に変わって行く。
「はい。はい。……あ、ああはい」
父親は数回頷き、町一番の総合病院の名をホワイトボードに書いた。
由紀子の行きつけではない。高度医療機器を多数有する総合病院。
その意味するところは。
「判りました行きます。え?エリカですか?今電話に出た娘ですよ。一緒にですか……判りました」
父親は電話を切った。
「エリカちゃん」
父親がエリアの目をまっすぐに見る。
たじろぐほど真剣である。戦う男の目である。
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