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天使のアルバイト-086-

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「佐藤ドクター」
 看護師がドアをノックした。
「はい」
 中から返事。低く、落ち着いた感じの男性の声。
「沢口さんの、家族の方です」
「どうぞ」
 これは意図してそういう声にしている、とエリアには判る。早口や上擦った声は、聞く者のパニックを煽るだけ。
 看護師が扉を開けた。
 ソファセットがあり、テーブルを挟んだ向かいには、白衣の医師。
 と、その隣、若い女性。
 女性の方がすっと椅子から立った。
「沢口さん……」
 3人を見る困惑したような目。
 電話の声の主。すなわち
「担任の樋口(ひぐち)です。あ、あなたがエリカさんね。由紀子さんから良く聞く……」
 樋口という名の担任教師は、それだけ言うと、あとは黙ってエリアの顔をじっと見つめた。
 そしていきなりエリアを抱きしめる。
「ありがとう……来てくれてありがとう……」
 涙でも流しそうな声で言われる。
 エリアは、自分も涙が出てくるのではないかと思いながら、担任教師の肩にそっと腕を回した。
「一番大事な友達ですから……」
「そうね、うん、そうね。当然よね。そうね……」
 担任は繰り返して言い、ゆっくりと腕をほどいた。
「とにかく、お座り下さい」
 頃合いを見計らい、佐藤という名の医師が促す。
「はい」
 両親が席に着き、担任が自席に戻り、エリアも腰を下ろす。
 両親の目が医師に向く。担任は誰の目も見ることもなく、うつむいたまま。その手を膝元に引き据え、ギュッと拳を握って。
 エリアはテーブル越しに担任のその手を握る。担任がハッとしたような目をエリアに向ける。
 医師が息を吸った。
「由紀子さんを担当させていただくことになりました、循環器科の佐藤です」
 まずは尋常な挨拶。
 しかし。
「今回はいきなりのお呼び立て、大変驚かれたことと思います。由紀子さんは学校で意識不明となり、急患として当院に搬送されて参りました」
 固唾を呑む両親。
 

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