アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-055-
それは泳ぐとか、何かに掴まるとか、身を守る行動を取る以前に、急速に体温が奪われるであろうと冷静に認識している。なお、レムリアの服装は遊園地に遊びに来た中学生、そのままである。
水没したら静かに身体が浮き上がるのを待つ。セオリーに従ってみる。そして、津波の水は体内に入れてはいけない。病原菌はもちろん、油の粒に代表される廃液や、汚水の類いが多量に混じっているからだ。折角救い出してもそれらに気付かず、追って病気や呼吸器疾患で亡くなる人もあるほど。津波関連症候群という。
津波は複合災害である。
「お姉ちゃん!」
女の子の声が聞こえた。
顔が水面に出ており、目前に彼女が部屋から持ち出したクマちゃんが降ってきた。
つかまれと言うことだろう。抱きかかえると、なるほど浮力を感じる。次いで甲板からロープが降りて来た。
ロープ先端の輪に手首を通したところでアリスタルコスに持ち上げられる。
「ありがとう」
「そのまま次とか言うなよ。せめて着替えろ。お前が風邪引いたらかなわん。津波は様々な毒劇物も運んでいるはずだ」
「はい」
この船は彼女にとって移動別荘と言って良い。数日暮らせる衣類は持ち込んである。
ただその前に保持ユニットを覗いて行く。すると中から少しの笑みで副長セレネが応じ。
及び、
「ああ、レムリア、さん」
慣れぬ名を呼ぶ男性。背後で心電図が脈打つ。
蘇生したならそれで良い。
「一通り助けたら病院へ寄ります。それまでは目を離さず。何かあったらそのボタンを押して下さい。副長、もう大丈夫です。お疲れ様でした」
「判りました。ね?言った通りでしょう?」
セレネは長い装束をふわりとさせ、立ち上がると、男性に微笑んで背を向けた。
レムリアはそんなやりとりを見届けると、操舵室2個隣、自分用に設えられた個室に向かった。ちなみに個室があるのは女の子だからという配慮。
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