天使のアルバイト-087-
医師が続ける。
「意識不明の直接の原因は高熱です。しかし、鼻腔(びくう)や皮下から出血が見られたため、別の可能性が浮上、検査を行いました」
医師が書類を出し、机の上に置く。横文字と数字の羅列。
エリアは横目でそれを見る。ヘマトクリット(総血液量に占める赤血球の割合)、血小板、etc……血液中の成分量のデータだ。いずれも“数が少ない”旨のデータであり、特にヘモグロビンの数値4.5に赤丸がしてある。もう一つは骨髄穿刺(こつずいせんし)のデータで、顕微鏡写真が貼ってあり、“形成不全”との所見。
少しの沈黙。
「よろしいですか?」
医師が問う。それはエリアを待っている……見終わるのを待っている、ということ。
「あ、はい」
エリアはデータから目を離した。
医師に視線を戻す。
すると、医師は躊躇するかのように一瞬何か言いかけて止め、次いで息を詰め。
「単刀直入に申し上げます。由紀子さんの病気はアプラスティック・アナーミア…特発性の再生不良性貧血です」(aplastic anemia)
振り切るように、医師は言った。
肩をすくめるような担任。
そして、エリアは目を見開く……もちろん驚愕で。
身体がびくりと震え、頭から血の気が引く感じ。
しかし、
「ひ、貧血……ですかぁ?」
母親が頓狂と言えるほどの高い声で言い、父親と顔を見合わせる。
両親に浮かぶ安堵の笑み。
続いて母親が笑い飛ばすかのように。
「貧血ならあの娘小さい頃から……。先生、深刻な顔して、しかもあんな大袈裟な施設……いやですよぉ」
「その貧血ではありません。……ああ、あなたは知っているのだね」
医師はエリアを見て言った。
両親がギョッとした表情を見せ、エリアを見る。
エリアは反射的に頷く。自分が目に涙を浮かべているのが判る。それはいけないことだと判っている。しかし。
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