天使のアルバイト-088-
しかし、ココロと身体が勝手に反応してしまい制御できない。その病気は知っている。そして、医師がこうして呼びつけるからには、症状の重篤性と。
今後どうなるか、予後(よご)を、“考慮しておくべき”であると推察できる。
医師が両親に目を戻す。
「ご説明させてください。再生不良性貧血とは、血が足りない状態から再生しない貧血。文字通り、血が足りなくなる、病気です」
医師は、ゆっくり、言った。
「え……」
両親の顔色が変わって来た。
「少し詳しく説明します。人間の血液というのは、全身にあるいろんな骨の中心、骨髄で作られます。そして古くなった血液は脾臓(ひぞう)に運ばれ、壊されます。この間、成分によって違いますが、約2週間から6ヶ月くらいです」
医師は背後にあるホワイトボードに図解した。
「再生不良性貧血は、この骨髄が、血液を作る機能を失ってしまう病気です。すなわち、新しい血液が作られない」
医師は図解中の“骨髄”に大きく×印を付け、ペンをボードの下に置いた。
「そして……ですね」
言いかけて再びの躊躇。
息を詰まらせ、目を伏せてしまう担任。
その仕草に両親が担任を見、表情に不安を浮かべる。
「そして……由紀子さんの症状の度合いなんですが」
医師は、意を決したように口に開く。
明言を避けて不安を煽るよりも、きちんと話した方がよい。そういう意識が佐藤医師の中で働いたのだとエリアには判る。
両親が目を医師に戻した。
「由紀子さんは特発性、すなわち突然発症するタイプです。そして重症であり、しかも症状の進行が著しく早い、極めて稀な症例です」
両親が目を見開き、息を止めた。
誰も言葉を発しない。
担任はうつむいて、息を殺したまま。
両親も目は医師に向いているが、焦点が合っていない。
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