アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-065-
瞬時に摩擦熱で高温になり一部蒸発し、“水蒸気爆発”に近い様相を呈した。
爆発音と湯気が立ち、柱のような水がタンカー右舷を衝撃した。
アルゴ号は反動で船体が左右に振動した。しかし、ラングレヌスが帆膜を動かしタンカーへ水を当て続けた。それは“滝砲”とでも称すべきか。
タンカーは右舷に水流を当てられ続けた結果、回転して船尾が高台集落、および打ち上がっているアルゴ号の方に向いた。
『エネルギ消失するぞ』
『一撃で押し出せ』
アルゴ号はタンカーの船尾に最後の一撃となる水の塊をぶつけ、高台から離れる方向に押し出した。
その時点で、アルゴ号は全ての燃料を失った。
津波が次第に高度を下げ始める。
雪が降っていることに、一同はようやく気付く。
9
錨は一本だけ土中10メートルに達し、アルゴ号は引き波に耐えてその地高台に船底を付けた。ただ、高台は地盤沈下の影響もあってか、水に囲まれ孤島状態。救助を求めるのは簡単だが、来られまい。相原によれば、北海道・青森・岩手・宮城・福島・茨城・千葉まで沿岸はすべからく津波の被害を受けたという。このままこの地で夜をやり過ごすのが多分最善。
駆動力は失ったが、船内を一晩暖房できるだけのバッテリ電力は有している。帆膜は太陽電池であり、翌日晴れればバッテリ充電には充分。
『ビバークする』
レムリアはそれを聞くと、甲板に出て髪の毛を雪風に晒した。その肌に当たるつぶて冷たさをしてようやく現実感が伴う。船内にいると外がまるでテレビの向こうのよう。それが“今そこにある危機”に対するパニックを遠ざけるという効用もあるのだが。
集まって来る人々に顔を向ける。釣り客向け民宿であろうか、舟屋を備えた2階建て家屋が3軒。ただ、いずれもどうにか家屋の外形を留めている、と言った方が良く、傾いでいたり1階部分の窓が無かったり。
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