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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-068-

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「でも……」
「いいです。言わなくていいです。安藤さんが責任を感じてはいけません」
 レムリアは崩れ落ちそうになる安藤さんを抱きかかえて抱き締めた。
 明治三陸を上回る波にのまれ、一部家屋の屋根上に逃れたこの人たちを除いて流された。
「安藤さんは可能な限りをされたんです。そして今、こうして調理を手伝って下さる。おかげで食事が出来ます。皆さんもそう。出来ることを、しましょう。生き延びましょう」
 レムリアは言った。言ったが涙が出てきた。現時点、救えなかった命がこの船の中にある。前に判ったら、早く来られたら。もっともっと、呼びかけ行為を続けるべきではなかったか。
「そうね」
 安藤さんは目を開いた。
「美味しく作るから、食べて」
 情報を整理して全員に展開する。史上最大の地震で東日本全体に震動と津波。犠牲は予測が付かず、気仙沼を始め各所港湾で火の海や壊滅などの報あり。
「壊滅……」
 21世紀の先進国日本であるまじき単語。しかし、現実は冷酷。
 津波は今後も余震次第では発生する可能性がある。ここは船なので波自体はしのげる。
 ここから動かないで欲しい。近親者への連絡は請け負って災害掲示板等へ流す。
 人々は息を呑む。子供達の目に涙が浮かぶ。
 想像を絶する大災害という認識が人々を捉えて黙り込ませる。
「おばあちゃん……」
 男の子が一人、ぼろぼろと涙をこぼす。“怖い考え”が彼を捉える。
「おいで」
 レムリアは抱き締める。今この瞬間、どれだけ多くの人々が、幼い心が、同じ恐怖に心痛めているか。
 携帯に着信。相原、と思ったが、テレビ会議システムは繋いだままなのでそうではない。
「call」
 声に出せば船の設備でハンズフリー。
 番号……見覚えがある。オランダ、アムステルダムの孤児院である。

 

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