天使のアルバイト-091-
両親は困惑したように互いに顔を見合わせた。そんなこと言われてもどうすれば……エリアには二人の共通の意識が判る。
父親が医師を見た。
「で、その、移植用の骨髄ってのは、どうやって……」
掠れた声色に表れる不安と狼狽。否定の恐怖に抗い勇気を振り絞って。
「はい。まずは血縁者の方を調べます。兄弟がいる場合、確率四分の一で同じHLAになります。あとは、骨髄バンクより紹介頂くか、皆様方でお探し頂くことになります。骨髄バンクはご存じですか?」
「ああ、聞いたことはあります」
母親が言う。そして続けて合点が行ったように。
「あ、あの骨髄バンク……そういうことですか。なるほど」
「その通りです。バンクは、この再生不良性貧血や、骨髄性白血病など、骨髄移植を必要とする病気の治療のために、骨髄を提供してもいいですよ、という方のデータベースです。しかし現状では、何万通りというHLAの組み合わせに対して、登録者数が充分とは必ずしも言えない」
「じゃ、テレビで時々宣伝しているのは……」
「そう。登録数を増やす必要があるためです。既に由紀子さんのHLAはバンクに照会を出しました。ただ、そういう数的な事情がありますから、これで確実に、というわけには行かないのです」
(日本骨髄バンク公式より。2017/1/1時点)
そこで医師が沈黙する。
エリアはその意味を悟って首筋に寒気を覚える。
医師の言いたいことはこう。つまり、骨髄の提供者がいなければ、由紀子の命は保証できない……。
「あの、私の調べていただけますか?」
エリアは反射的に立ち上がって言った。このインチキ人間体にHLAが存在するのか。 また、合致したとして移植のドナーになっていいのか。それは判らない。
ただ、黙っていられない。
医師がエリアを上から下まで見つめる。
「うーん……どうかなあ。君、親御さんのどちらかが海外でしょう。ご存じと思うが、民族が違うと一致する確率は非常に低い」
「でも……」
「判った。やってみよう」
「あの……私も」
「私も」
「わたくしも」
両親と担任が立ち上がる。
「判りました。いらしてください」
医師は、言った。
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