アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-070-
前を向くのだ。今はただ前を見るのだ。
「みんなも。ちゃんとお父さんお母さんのところへ送って行くから」
レムリアは“怖い考え”の連鎖パニックを心配した。
が。
「うん」
「お腹減ったよ。おばちゃんまだ?」
子供達は想像以上に強かった。
そして、温かいそばめしが出来上がった。“お椀”という食器は船に無いので、近隣および漂着物の持ち寄り。
「ああ」
あちこちで漏れる安堵の息。
「温かい。生き返る」
「生きてる……生きてるね……」
人々のそれは実感であろう。延々たる地震動の後、何も持たぬままここを目指し、情報から隔絶されて事態の深甚さに気付かぬまま、巨浪に翻弄され。
目の前で知己が流されるなど耐えがたい体験をし、それでも、人の手で調理された温かい食事が取れる。
“人間らしさ”を再認識したとレムリアは感じた。“同船者”34名。このうち子供は小学生で8名。
10
深夜二時。操舵室。ほぼ真っ暗。
毛布で雑魚寝。電力削減のため船のコンピュータは副長席パソコンだけ作動。副長席はひな壇を少し登った一角で、観葉植物に囲われてベッドがある。通常の救助活動ではこのベッドに副長セレネが横たわり、テレパスを全力で発揮して要救護者の“心の悲鳴”を拾うのであるが。
現在は雑魚寝不可能な女性二人に貸し出し、その様子見も兼ねてベッド下に副長とレムリア。
彼女の携帯電話に着信する。レムリアはむしろテレパスが感応し、バイブレーションより数瞬早く目覚めた。
相手は相原である。胸騒ぎ。彼ではなく自分に。何だろうこの“気配を消している”感じ。
「何かあった?」
『救助を呼んだか?』
「いや。船で対応できる範囲だから特には」
『レーダに感あり。小型船舶4隻接近。真方位322(しんほういさんにーに。ほぼ北北西)パトライトや声かけなど救助隊の可能性あるか確認せよ。関連する無線はこちらでは検出できない』
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