アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-076-
降りてすぐの武器庫には、ロックが掛けられることからご遺体を安置している。トリアージ黒札。医師の判断を経ないものは“心肺停止”と表現されるが、逆に誰が見てもという状態の場合“即死”と書かれる。ここに安置しているのは後者である。津波は水によって溺れる、のみならず、トンの単位の物体が複数流される。それらに人体が巻き込まれたら大きな損傷は免れない。遺体の状況は凄惨を極め、身元確認は難しい。津波を描いた過去の絵画はそうした点を強調し、だから、揺れたら逃げろ、或いはそもそも住居を作るなと強く諫めている。
船がゆっくり動く。津波か、地震か。
レムリアは子供達のいる操舵室に戻った。
11
「主コンピュータ電源回復。充電開始」
シュレーターの声で目覚める。いつの間にか自分のコンソールで突っ伏して眠っていた。
マストが3枚とも展帆している。モニタに映った船外はブルー。すなわち快晴。気温は0度。消火膜代わりの第2マストの帆も元の位置。男達が戻したのであろう。
第2マスト頂部にあるカメラを動かす。
「おお……」
大きな衝撃と小さな声が乗組員を捕らえる。
引かぬままの水面を埋め尽くす瓦礫と、見え隠れする多数の遺体。
上空を飛ぶヘリコプター複数。
「アリス、ラング。出来るだけ回収を。データリンクを再開する。相原、鎌倉宇宙機製作所応答せよ」
船長アルフォンススの声がし、大男達が操舵室を出て行く。
正面モニタは相原の会社のテレビ会議室を映した。
作業服着たメガネの男。即応する辺り寝ていないとレムリアは判じた。
『はい相原。アルゴ号の位置と状態は把握している。ウチの連中が反水素貯蔵ユニットを持って出るので航行可能になる。しばし待たれよ。概況を伝える。震源は宮城県沖。マグニチュードは暫定値8.8。最大震度7。津波によりおびただしい人命が失われた。アルゴ号周囲の状態が沿岸一帯で見られると考えていただいて良い。東京でも建物の屋根が落下して人死にが出た。犠牲の全容は不明だが1万では済まないだろう。なお、福島第一原子力発電所が電源を喪失し冷却不能。メルトダウンの恐れが高い』
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