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天使のアルバイト-097-

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 ただ、表情にあの頃の軽薄さはあまりない。
「そんな、いいですよ。元気になって良かった」
 エリアはいつもの笑顔で言った。そんなこと気にしない。赤ちゃんが助かった。それが嬉しい。
「それで……」
 母親が口ごもるように続ける。
「はい?」
「……聞いたんだけど、このビラ、配るの手伝わせてくれないかなって」
 母親は手にしたビラを指差した。
 エリアは息を呑む。
「え……」
「赤ちゃん助けてもらったし、何て言うんだろ、命がどんなものか、よく判ったから……」
 言葉が出ない。ただ、なんて素敵なんだろうという、陳腐な表現を使えばそんな思いが心臓の辺りに風船のように膨らんでいる。
 彼女に抱きついてしまいたい。
「ありがとうございます!」
 エリアは気持ちを抑制してそれだけ言い、勢いよく深々と頭を下げた。でも、声が大きくなってしまって衆目が集まる。
「じゃ……残りも持って行っていいね。駅で知り合いが働いてるから配らせてもらう」
「はい。はい!ありがとうございます。私もあとで行きます」
 エリアはもう一度頭を下げた。
 少し前までの、塞ぎ込んでいた自分がウソのように思えてくる。
 門が開いた。上り坂の向こうに真っ直ぐな道が見えた。そんな感じ。
 大丈夫だ。と思う。
 努力は必ず実を結ぶようにできている!
 
16
 
 結局、エリアは閉店までいたあと、着替える時間すらも惜しく、スーパーの制服を着たまま駅へ走った。北風があり、正直寒かったが、何か着るでなく、若い母親と深夜0時近くまでビラを配った。
 持って行ってくれた人は14人。
 途中「自分もバンクに登録している」と手伝ってくれた人がひとり。
 もちろん、余った枚数の方がはるかに多い。
「もっと持って行ってくれると思ったんだけど……」
 若い母親は缶コーヒーを飲みながらつぶやいた。
 

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