アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-079-
船の前では炊き出しをしているので、まず、帆を広げて風よけ。次いで大男達の力を頼み、木箱と武器庫のご遺体を浜辺へ移動する。これらはヘリが接近し、ローター音に合わせた行動であったせいか、子供達が覗きに来たが、どのみち判る話で隠すものではあるまい。亡くなった方々を運びますと言ったら、揃って手を合わせてくれた。なお、一帯の水が引かないのは、地盤の沈下、伴う海岸線の進入、河川堤防の破壊、下水等排水設備の損壊全ての複合による。
ヘリが降下。但しスペースの都合で着地はせず、空中静止し、一人ロープで下りてくる。
レムリアは船を下りて“海岸”へ走る。ローターの作る風が凄いが、浜辺の砂は吸い込んだ水分の影響で半ば凍っており、砂埃が舞うようなことはない。
ただ、音が凄い。
「先ほどの槇村です!姫君!」
敬礼。身分はバレている。以下ローター音に負けないよう大声だが、応じた記号は省略する。
「お疲れ様です。搬送お願いいたします。あと、可能であれば医師を派遣下さい。この船は病院として利用できます」
「判りました。伝えます」
会話中に遺体を木箱へ。ヘリからロープを下げてもらい、槇村隊員がフックに引っかける。
槇村隊員は木箱の縁に乗り、ロープにつかまる。
「では」
「ありがとうございます。どうかご家族の元へ」
「承りました」
ヘリは槇村隊員そのまま、木箱を下げて“島”から遠ざかっていった。
「あっ……」
傍らで一連を見ていた男の子から声が上がる。少し離れた位置、水面から出た人の手。
「あれって……まだ……」
子供にご遺体を見せてしまった。しかし、レムリアは隠そうとはしなかった。
同じことは多分どこでも起こっている。今後も、この子達も目にする。
そして、その意味するところは、この子達にだけ目隠しをすることではなく。
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