アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-081-
「田老も……」
子供達はその町の名を知っているようである。まるで試合で味方の敗戦を聞いたかのように肩を落とす。最も、津波を知ることは三陸沿岸で呼吸の如くであり、その“先端”である田老の対応は知っていて当然。ちなみに同地区は明治三陸・昭和三陸と繰り返す津波被害に10メートルの堤防を2重に形成、万里の長城とすら言われた。それは1960年チリ地震津波では確かに町を守った。
しかし今回、津波は15メートルを越し、堤防を乗り越え、破壊し、町に流れ込んだ。
(岩手県サイト「津波対策施設の復旧、整備箇所【No.27 田老海岸】現地写真、津波被害状況および復旧方針」より)
後に判ることだが、この堤防が“万全の対策という誤解”を町に与えた可能性は否定できまい。堤防自体は“避難までの時間稼ぎ”程度に捉える方が適切であろう。
「私は、みんなが生き延びてここにいる、そのことに大きな意味があると思っています。大人は子供に何か話すとき、“これは子供だからやめておこう”と勝手に決めるんですよ。すると子供達は何も知らないまま実際その場面に遭遇し、大きなショックを受けて本当に必要な行動を取ることが出来なくなってしまう」
「“津波てんでんこ”ってそういう意味か」
男の子が得心したように拳を作った。
聞いていたのだろう、相原からピンが来た。
『津波が来たら自分の命をまず守れ。人は気にせず自分が逃げろ。という極限サバイバル標語。「てんで」、は、てんでに、個々にという意味』
レムリアは頷いた。
「そういう意味でしょうね。ショックで立ち止まっていてはダメ、ということで良いと思います。目の前で誰か死のうとしていても立ち止まらず走れ。みんな、そういう説明は受けていないでしょう。大人が勝手にそうしたんです。でも、みんなは、子供の目で、実際を見た。だから“津波てんでんこ”の真剣な思い、ギリギリの恐ろしさを教えることが出来る……」
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