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めーるぼっくす

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2017年3月

天使のアルバイト-103-

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「徹底的に……生きる……」
 女の子がか細い声を出す。今にも割れそうな、薄いガラスのような、声。
「そう。ちょっと失敗したくらいで死ぬなんて馬鹿馬鹿しい。あなたには未来がある。そこに多くの出会いが待っている。その中にはあなたを理解してくれる人が必ず現れる。今、こうして私があなたに話していることが何よりの証明」
 エリアは女の子の両手を持った。
「生きていればいろんなことが出来る。だから、生きること。これが何よりまず大事なこと。……もう少し早くあなたと会えれば、あなたと私の友達、きっと仲良しになれたでしょうね」
 エリアは言った。
 女の子の目が円くなった。
「あなたの友達?」
「そう。私の友達……重い病気で今夜乗り越えられるかどうか」
「え……え……?」
 動揺が女の子を捉える。
 いきなり言うべき事ではないかも知れない。でも、躊躇なくエリアの口をついて出た。
 それは抱える思いを誰かに聞いてもらいたいという意識の反映かも知れぬ。しかしそれと同時に、“死”を考えたこの少女には、話しておくべきという意識も存在する。
「たくさんの生命維持の機械と、医師や看護師、移植医療の慈善団体が、24時間休まず、八方手を尽くして、彼女を助けようとしてくれてる。
 ひとりの女の子を救うために、ひとつの命を救うために。
 命とはそういうもの。消してしまうのは簡単、でも消さないようにするのはとても難しい。
 それでも……あなたは、あなたにそんなひどいことを言った彼のために、あなたの母から授かった命を絶ちますか?それほどの価値が彼にはあるのですか?」
 エリアは言うと、女の子を腕の束縛の中から解き、目の前に立たせ、まっすぐに顔を見た。
 ちなみにこの時、二人の服と髪はすっかり乾いていたのだが、二人ともそのことに気付いていない。
「あの……」
「何も言わなくていい。ただ、これだけは約束して。絶対死のうだなんて思わない」
「…約束します」
 女の子は、言った。
 エリアは笑顔を作った。
 これで多分、この彼女は大丈夫。
 携帯電話が、電子音で、エリアを呼んだ。
 

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-084-

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 タブレットに映る汚物まみれの姿を見せつける。破いたのでボロ布同然の衣服を首に縛り付け、髪の毛掴んで引きずって行く。乗って来たボートに叩き込んで押し出すと、プラズマの火の玉を一発間近にくれてやり、水蒸気圧力で遠くへ。
「操舵室。トレーサー001を女の膣内に仕込んだ。追尾願う。学、トレーサーの位置に衛星からビーム突っ込むとか可能?」
『合衆国にMTLでも借りればな。PVパネルフレアって奴なら故意に見せられるぜ。太陽電池が陽光を反射してギラリって奴だ。最も、こっちの警察サイバーに連絡したけどな。後で動画と拾った指輪くれ。今はコソ泥に警察力を割くタイミングじゃねぇ』(MTL:宇宙レーザ砲の一種)
「了解」
 答えて程なく、携帯電話に着信あり。また面倒ごとか、と思ったがそうではなかった。
 懐かしい番号が発呼者として表示されている。都内総合病院の小児科医師。名を佐橋(さはし)という。

 

12

 

「“姫”です。お久しぶりです」
 レムリアは笑みを作って応じた。懐かしさと、何故か安心感が筋肉を緩ませる。
『おお、番号合ってたか。良かった。実はだね。日本で大きな地震があってこれから応援で現地へ行くんだが、ここは是非君の力をお借りできればと思って……』
「それでしたら現在気仙沼近くにおります。病院船機能を備えた船で来てますので。先生に来ていただければパワー万倍」
『もう来てるのか!?まるで魔法だな』
「少し使いました。一応、自衛隊さんと接触して医師が欲しい旨は伝えたのですが。自衛隊筋にアルゴ号への派遣希望と申し出ていただければ」
 そこへ相原からピン。
『割り込んで申し訳ない……』
 レムリアがその病院に入院し、相原が付き添った関係で、医師と相原には見識がある。

 

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-083-

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 背後に駆け寄る足音二つ、程なくガチャッと音がし、長銃が二本、女に向いた。
 以下、分かり易いようセンテンスを刻んで警告。
「動くな。それを拾うな。全部録画している。警察に言う。お前に食わせるものはここにはない。情報は全ての避難所にばらまく。ここで死ぬか、日本から出て行くか選べ」
 相原からピン。
『不逞の輩か』
「まぁそんなところ。どうしよう」
『トレースだけして丸裸にして放り出せ。殺人は罪だしな。正当防衛の結果落命したら知らんが』
「了解。おい、服を脱げ」
 レムリアは容赦なく言った。背後で子供達が見ている。一部始終見ている。
「なに言う……」
「まだ隠しているだろうが。クソ泥棒女が。殺すぞ」
『容赦ないな』
 これはラングレヌス。唇の端を歪めて苦笑いする様が見えるよう。
「女だからさ」
 レムリアは吐き捨てるように言い、女につかみかかり、力任せに服を破いて女を全裸にする。本当に丸裸にしてしまう。下着の中からも現金や装飾品が出てきて散らばった。
 胸元と下腹部を隠す。しゃがみ込んで泣き顔で首を左右に振る。『もうやめて』そんなところか。
 母国語で何か言うがテレパシー使うのもおぞましい。
「この期に及んで恥ずかしがるタマか。女に分類されるな虫酸が走るわ。出せ。まだ、ある、だろう?あ?レントゲン撮って浣腸しようか?」
 書くまでもあるまい。レムリアは女に飛びかかって押し倒し、指突っ込んでほじりだした。但し子供達には見えないよう、自らの身体で目隠しをして。
 無表情な少女がのしかかってきて股間に手を入れてくる。相応の恐怖であったようで女は失禁した。
「汚ぇな馬鹿女郎(じょろう)が。徹頭徹尾クソだなしかし。微生物の栄養になるだけクソに失礼か。失せろ。一度だけ言うが、お前は監視している。同じことをしようとすれば死ぬことになる」

 

天使のアルバイト-102-

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 実は今、エリアは超感覚を用いた。女の子の事情もそれにより判じた。
 封印されているはずの、彼女本来の力が働いたのだ。ただ、エリアにとって、それは元々当然のことであるため、変化していることには気付いていない。
「あなたは彼を好きかも知れない。でも、彼はあなたが好きではない」
 エリアは把握した状況をいきなり口にした。女の子の身体がびくりと震え、心臓の拍動が乱れるのが如実に判る。
 その身体をエリアは強く抱きしめる。
「最後まで聞いてちょうだい。彼はあなたに痩せろと言った。でもそれは彼が、女性を外見でしか見ていない証拠。中身のない人間は、自分の中身を見られたくないから、相手にも外見だけが全ての存在を求める。
 だから、私には判る。その可愛い彼女もいつか飽きられ、捨てられる。慰めなんかじゃない。軽薄な人間には軽薄なことしかできない。でも、あなたは違う。ボロボロになるまで無理して痩せようとして、死のうとまで思った。それはあなたが真剣に物事を考える女の子である証拠」
 女の子の身体から力が抜ける。
「今すぐ諦めろとは言わない。でも、命捧げるほどの相手じゃあ絶対にない。彼のために無理をして……それで安らぎがあった?不安と、闇の縁のような絶望感に苛まれていただけじゃないの?」
 女の子が次第にエリアに体重を預けてくる。
「死ぬほどの勇気があったら生きてみようよ」
 エリアは言った。まるで女の子が旧知の友であるかのように親しげに。
「人間は死ぬために生まれてくるんじゃない。それだったら最初から生まれないのと同じ。でも生まれる。それは生きろということ。だったら徹底的に生きてみようよ」
 女の子はそこでエリアに目を向けた。
 赤くなり、腫れ上がった瞼が、しかし希望の夜明けが来たように開かれる。
 

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-082-

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「お姉ちゃん、誰か来るぜ」
 発見の声に振り返り、指さす先を見ると、近づいて来る手こぎボート有り。
 信用ならぬ。超感覚の警告。
「ボランティアてす。おてつらいします」
 書き間違いではない。日本語の発音がおかしい。そして一人で手こぎのボート。
 若い女性である。レムリアは超感覚が勝手にバリアを張るのを感じた。怪しいと直感的に思った人物を近づけたくないという心理は誰にも作用するものだが、超感覚の次元ではバリアの体を成す。
『どうしました?』
 テレパシーで繋がっているセレネから反応。レムリアは耳穴からピンを送って大男達に注意喚起。同時に胸元タブレットのカメラで録画開始。
『どうした』
 この問いは船長。
「介抱泥棒の類い。多分」
 小声で答えていると、女性はボートで岸に上がった。件の漂流している遺体に目もくれなかったことでテレパスの回答を確信する。
「私どもは食料も医薬品も充分です。行政の一次対応が整い次第移送します。どうぞ他の困っているところへ」
 穏便にお断り。とは言え、行かれたら先方が困るのだろうが。
「てもあの、わたし看護師」
 てめえ泥棒だろうが。一喝するのは簡単である。が、後々を考えると証拠が欲しい。及び、今の看護師という自己申告はウソである。
 一計。
「あら、だったらご自身の体調が優れないのはお気づきではないですか?徹夜であちこち回ってらしたのでしょう。ちょっと体温測ってみませんか?」
 ウェストポーチから体温計出して近づこうとすると、果たして女性は身を翻して逃げだそうとした。
 流れ着いた瓦礫に足を取られて転ぶ。その胸元ポケットからばらばらとこぼれる金属の輝き。
 多数の指輪。
「……!!」
 女が何事か叫ぶ。しまった!系の言葉と思うが何を言ってるか判らない。レムリアは12の言語を操るが、そのレパートリーに存在しない。反射的に出た母国語というところか。

 

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-081-

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「田老も……」
 子供達はその町の名を知っているようである。まるで試合で味方の敗戦を聞いたかのように肩を落とす。最も、津波を知ることは三陸沿岸で呼吸の如くであり、その“先端”である田老の対応は知っていて当然。ちなみに同地区は明治三陸・昭和三陸と繰り返す津波被害に10メートルの堤防を2重に形成、万里の長城とすら言われた。それは1960年チリ地震津波では確かに町を守った。
 しかし今回、津波は15メートルを越し、堤防を乗り越え、破壊し、町に流れ込んだ。
Eq4
(岩手県サイト「津波対策施設の復旧、整備箇所【No.27 田老海岸】現地写真、津波被害状況および復旧方針」より)

 

 後に判ることだが、この堤防が“万全の対策という誤解”を町に与えた可能性は否定できまい。堤防自体は“避難までの時間稼ぎ”程度に捉える方が適切であろう。
「私は、みんなが生き延びてここにいる、そのことに大きな意味があると思っています。大人は子供に何か話すとき、“これは子供だからやめておこう”と勝手に決めるんですよ。すると子供達は何も知らないまま実際その場面に遭遇し、大きなショックを受けて本当に必要な行動を取ることが出来なくなってしまう」
「“津波てんでんこ”ってそういう意味か」
 男の子が得心したように拳を作った。
 聞いていたのだろう、相原からピンが来た。
『津波が来たら自分の命をまず守れ。人は気にせず自分が逃げろ。という極限サバイバル標語。「てんで」、は、てんでに、個々にという意味』
 レムリアは頷いた。
「そういう意味でしょうね。ショックで立ち止まっていてはダメ、ということで良いと思います。目の前で誰か死のうとしていても立ち止まらず走れ。みんな、そういう説明は受けていないでしょう。大人が勝手にそうしたんです。でも、みんなは、子供の目で、実際を見た。だから“津波てんでんこ”の真剣な思い、ギリギリの恐ろしさを教えることが出来る……」

 

天使のアルバイト-101-

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 許してくれるようである。エリアは安堵と共にもう一度頭を下げた。
「はい。すいませんでした」
 運転士と車掌が指差呼称で安全を確かめ、それぞれの持ち場へ戻って行く。
 その間、エリアは女の子の肩を抱える。小さな警笛があり、電車が動き出す。安全確認のためか最初はスローで、橋を渡り終えてから加速を始める。
 エリアはそれを見届けると、女の子を連れて堤防、すなわち最初エリア自身が助けてもらった草の上に上がった。
 女の子をじっと見る。女の子はきょとんとしている。
 何が起こったのかよく判っていないらしい。
 このバカ娘!……エリアは一喝したくなる。こっちには、生きていたいのに病魔によってそれすらも不確かな娘がいるのだ。そして、彼女の命を守ろうと、多くの人が昼夜を分かたず八方手を尽くしてくれているのだ。
 それなのに、それなのに……やすやすと命を絶とうなんて。
 しかし。
「どうしてあんなところに立っていたの……」
 エリアの口をついて出たのは、迷子の幼子を迎えに出た母親の口調であった。
 女の子の濡れた髪の毛を絞りながら、自分が着ていたカーディガンを羽織らせながら、ゆっくりと尋ねる。見れば痩せぎす。頬は落ちくぼみ、骨ばっていて、ゴボウのようにどす黒く細い手足は、まるでミイラかガイコツ。
 女の子がワッと泣き出す。そのままエリアにしがみつき、恥も外聞もなく大声でわんわん泣く。
 エリアは女の子をそのまま抱いている。理由がフラッシュバックの映像で見えてくる。
 憧れの異性がいてその彼に痩せろと言われた。それで無理をしたら気持ち悪いと言われ、挙げ句に彼には既に可愛い彼女がいた……。
 弄ばれたのである。
「だからって、死ぬほどのことはないよ」
 エリアはゆっくり言う。女の子はエリアの肩のところで小刻みに震えている。
 

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-080-

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 現実を前に、レムリアは歯を食いしばる。
 そして、子供達を見回した。
「悲しいことをお知らせしなくてはなりません。ものすごい、数の方が、亡くなったそうです。1万人を超えるとか」
「いちまん!?」
 子供達は一様に目を見開き、中には目に見えて身体震わせる姿も。
「ええ。だから、君たちは、生き延びて、この状況を伝えて、二度と、同じことが起こらないように、しなくちゃならない」
 そうだ。レムリアは自分の言葉に頷いて言った。
「多くの悲しみと、ショックが、みんなの目の前で起こるでしょう。それは多分、何度も繰り返し夢に出て来るようなショックになるでしょう。PTSDという言葉を聞いたことがあるかも知れません。もちろん、見たくなければ、避けていいのです。この船の中にいて、外へ出なければ、見ることはありません。無理に心に傷を作る必要はありません。ただ、船は動けるようになれば病院船として活動しますし、みんなも手伝ってくれてる。そうなると、今後も、見ることになります。目の前で、お亡くなりになる、そんな状況も、あるかも知れません。お年寄りかも知れないし、赤ちゃんかも知れない。それは多分、気が狂いそうな気持ちになります」
 すると。
「お姉ちゃん、そういうの、見たことあるの?」
 幼い声にレムリアは迷わず頷いた。
「ええ。そして、そんな悲しみを少しでも減らしたい。それが私の願い。だから、今、ここにいるんだ。でも、この船一隻にはあまりにも相手が大きすぎた。北海道から、千葉県まで、津波による犠牲者が出たそうです。そして、全体で何人になるか、まだ見当が付きません。空から見たら全部流されて、それだけ判った。そんな町がいっぱいあります。田老(たろう)って知ってますか?大きな堤防で囲まれている……そこも津波に飲まれたそうです」

 

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-079-

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 船の前では炊き出しをしているので、まず、帆を広げて風よけ。次いで大男達の力を頼み、木箱と武器庫のご遺体を浜辺へ移動する。これらはヘリが接近し、ローター音に合わせた行動であったせいか、子供達が覗きに来たが、どのみち判る話で隠すものではあるまい。亡くなった方々を運びますと言ったら、揃って手を合わせてくれた。なお、一帯の水が引かないのは、地盤の沈下、伴う海岸線の進入、河川堤防の破壊、下水等排水設備の損壊全ての複合による。
 ヘリが降下。但しスペースの都合で着地はせず、空中静止し、一人ロープで下りてくる。
 レムリアは船を下りて“海岸”へ走る。ローターの作る風が凄いが、浜辺の砂は吸い込んだ水分の影響で半ば凍っており、砂埃が舞うようなことはない。
 ただ、音が凄い。
「先ほどの槇村です!姫君!」
 敬礼。身分はバレている。以下ローター音に負けないよう大声だが、応じた記号は省略する。
「お疲れ様です。搬送お願いいたします。あと、可能であれば医師を派遣下さい。この船は病院として利用できます」
「判りました。伝えます」
 会話中に遺体を木箱へ。ヘリからロープを下げてもらい、槇村隊員がフックに引っかける。
 槇村隊員は木箱の縁に乗り、ロープにつかまる。
「では」
「ありがとうございます。どうかご家族の元へ」
「承りました」
 ヘリは槇村隊員そのまま、木箱を下げて“島”から遠ざかっていった。
「あっ……」
 傍らで一連を見ていた男の子から声が上がる。少し離れた位置、水面から出た人の手。
「あれって……まだ……」
 子供にご遺体を見せてしまった。しかし、レムリアは隠そうとはしなかった。
 同じことは多分どこでも起こっている。今後も、この子達も目にする。
 そして、その意味するところは、この子達にだけ目隠しをすることではなく。

 

天使のアルバイト-100-

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 それと同じ現象が今、起きた。
 刹那。
 気が付くと、直近にそれこそ“まんまる”に目を開いた女の子の顔がある。
 背後から接近する光芒と圧力。
 橋から走って逃げる時間などない。
 躊躇は一瞬たりとも許されない。
 エリアは女の子の手を取り、川面に引き込んだ。
 二人の身体が宙に舞う。
 線路を離れ、その直後、急ブレーキに伴う摩擦の火花を散らしながら、通勤快速が二人のいた位置を通り過ぎる。
 着水の音がして水柱が上がる。
 但し水深は深くない。女の子はバランスを崩してしりもちをついたが、エリアは身が軽いこともあって立ったまま降り立った。
 すぐに女の子の手を引き、立たせる。
 長々と、ブレーキライニングのキーキー音を響かせ、橋梁上で、がくんと、電車が止まった。但し、先頭は遙か向こう、橋の上にあるのは、10両編成の9両目。
 乗客達が何事かと窓を開け、こちらへ顔を出す。
「おい。大丈夫か」
 誰かが言った。
「はい、大丈夫です」
 エリアは答える。
 と、列車の前後方向からそれぞれ砂利の上を走ってくる音。
 車掌と運転士。
「おい!」
 列車後尾から出て来た車掌が、二人を見つけるなり怒鳴る。怒りを帯びた声と心配を含んだ表情。
「大丈夫です。私の友達です。ご迷惑をおかけしました」
 エリアは機先を制して答え、深々と頭を下げた。
「責任を持って連れて帰りますから……」
 車掌は腕組みして二人を見、そして舌打ち。
「しょうがねえな……お客様!外へ出ないでください。安全が確認されましたのですぐに発車します」
 車掌は電車の前後に向かって大きな声で言い、息せき切って駆けつけた運転士に説明。
 二人がこちらを一瞥。
「すみません!」
 エリアはサッと頭を下げた。
「全く……」
 運転士が言い、二人は何やら相談。
「ちゃんと帰れよ」
 

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-078-

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「JSDF殿、お久しぶりです。いつぞやのその船、撃たれた当人です。当船は駆動能力は失いましたが船内環境維持は出来ています。救急処置を行える拠点として活動できます。人工透析、呼吸補助を必要とする方をそれぞれ4名2名受け入れられます。なお、食料の原材料補給と、当船で安置しているご遺体の回収を願いたい」
 日本語で普通に喋る。秋葉原の一件。それは相原も口にしたが、核ミサイル誤射騒ぎがあり、騒ぎの火付け役と誤認され世界中追い回され、秋葉原に不時着したことがあるのだ。自衛隊が対応し、ゆえにアルゴ号は日本の安全保障関係に存在は周知されている。無論、誤認は解消している。(※JSDF:自衛隊の英称 Japan Self-Defense Forces)
『了解しました。当方槇村(まきむら)と申します。安置人体の垂下搬送は可能か?どうぞ』
 つまりヘリからぶら下げて運べるか。
「そばの実の木箱が使えるだろう」
 船長が応じる。前記そばの実を収めていた木箱である。2メートル四方。念のための焚き火燃料用であったが、電力で保温可能であるし、船の所在が伝わった以上、必要に応じて暖房装置補給も受けられるであろう。
 レムリアは頷く。
「垂下搬送可能です。2メートル四方の木箱に収めます。十分な耐荷重のフックがありますので、それでお願いします」
『了解しました』
 大男達を呼び戻す。センサの位置へカメラを向けると、彼らは島を横切る“山脈”の向こうにあり、夜間に強盗団と接した浜辺にボディバッグを並べていた。プラズマガンが転がっており、瓦礫が幾らか片付けられて水面が見えている。恐らく、少々瓦礫を“吹き飛ばし”て、近場の方の身体を引き寄せたと見られる。

 

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-077-

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「は?」
 レムリアは思わず問い返した。原発が、なぜ?
 その声は子供達のいくらかが目を覚ますほど。
 反射的にカメラの向きを変える。ガレキから青空へ。福島がある南南東へ。映りはしないだろうが。
「メルト……」
『スリーマイル島と同じだ。4機あるからタチが悪い。政府がぐちゃぐちゃ言っているが、何が起こってるかサッパリ掴めない。対放射線防御態勢に入れるようセンシングはお願いする』
「そんな……」
 レムリアは以降の言葉が紡げず、ただ涙だけがぽろりと出た。
 地震、津波、火事、犯罪、原発事故……一体、どれだけの災害が出続ければ、事態は収まるというのだ。
 この国が、世界に何か悪さをしたか?
 平和を理念とし、人的、金銭的貢献を続けるこの国を災害が襲う理由は何なのだ。
 まさか太平洋戦争の報いというわけではあるまい。
「相原。センシングは作動した。ヨウ素とセシウム、ガンマ線をカウントしている。放射線通常値があれば送って欲しい」
 船長の回答。応じてモニタの左下に数値枠が出現する。
『放射線の生データは忘れたが0.05マイクロシーベルト毎時くらいが平均と記憶している。日本の基準は年間1ミリだ。越えそうなら警報と避難者の船内収納を』
『承知した。警戒レベルの設定、傾向管理アラーム設定を行った』
 頭の上で飛び交う会話。それは“泣いてるヒマなどない”と言外に言われているようであった。
 そう、実際泣いてるヒマなどないのだ。電力は確保できた。ある程度救援活動に設備を使える。
 涙拭き取ったモニタ画面にヘリコプター。
『自衛隊だ』
「モールス入電。貴艦は秋葉原の不時着船とお見受けする。回答願う」
 シュレーターが解読した。
「貸して」
 レムリアはPSCのマイクを無線に繋ぎ。

 

天使のアルバイト-099-

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 その明かりに頬を照らされ、作り出す風に髪を任せながら、何か無いかと彼女は考え続ける。助けてもらって、住む場所に仕事まで。今こそ、そのお返しをするべき時のはず。
 背後へと走り去った上り列車の音が聞こえなくなった。
 少しの静けさ。
 それから続いて、後ろから電車が接近してくる音。
 再びのヘッドライトの光芒。照らされる自分の背中、浮かび上がる前方と、伸びる自分の影。
 前方。そこは彼女が最初“落ちていた”場所である。川を渡る短い橋梁が掛かっているところ。
 後ろからの電車がプアーンと警笛を鳴らした。
 良く、テレビドラマなどで、電車が出てくると必ずと言っていいほど警笛の音を出すが、実際に電車が警笛を鳴らすのは危険防止のためで、しょっちゅう鳴らすものではない。
 危険防止……。
 ぼうっとしていたせいで自分が危険に見えたのだろうか。エリアはまず電車と自分を見た。もちろん何の問題もない。
 では、前か。エリアはヘッドライトの光芒の照らす方向を見る。
 すると。
 エリアは発見する。
 見間違いではない。川に架かる鋼鉄の橋、ガーダーブリッジと呼ばれる、枕木とレールが剥き出しになった橋の上に人影。
 自殺!
「ちょっと!」
 エリアは叫び、走り出す。同時に後方すぐで電車が長々と警笛を鳴らし、バシャッという空気の吐出音が、驚くほどの大きさで周囲に響く。
 非常ブレーキ。
 間に合うか……エリアは人影までの距離と電車を見比べながら考えた。
 間に合わない。
 でも助けたい。
 助けなければならない!
 次の瞬間、エリアは当たり前のように、使者として当然の動作として、大地から跳躍した。
 全身が炎を噴いたような感触が、一瞬、存在した。
 これか!エリアは思い出すと共に確信した。そう言えばあの夏の日、ロックされているはずの車のドアを開ける時、この感覚がこの身に生じた。
 

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