アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-094-
それは生命保持ユニット内のレムリアにも伝わった。なお、相原とシュレーターの会話の解説は省く。超伝導コイルとして作用する範囲を区分し、超伝導の及ばないエリアには通電しない。
レムリアは耳に指をしてピン。動けるのはいいのだが。
「私です。緊急開胸手術中。振動は困ります」
『まだ動かさない。どのくらい要する』
レムリアは医師を見、眼下の状況を見た。肺の中の異物を取り除く。似たような術式自体に立ち会ったことはある。
「あと2時間」
そこで船の警報が作動した。ピン2発。次いで合成音声『空中放射線の強度が上がっています』。
放射線。例の原発か。
『ベータ線?近いのか。相原判るか?』
『フクイチ(福島第一原子力発電所)がベントをすると言ってました。成功して出たか失敗して出たか。ベータ線だし距離は出ない。由来セシウムで近場へ来たモノと考えます。検出方向探査中。警報ポリシーレベル平準値に比して有意。モニタリング継続し上昇傾向あれば本船近辺の皆さんに待避を促します』
手術中の保持ユニットに聞こえる会話。
「放射線かね」
佐橋医師が問うた。一般に手術中の私語はあり得ないが、事態の重さが口を動かしたようだ。
「ええ、原子力発電所が電気が届かず動けないとか」
詳細を聞くのは後の話であるが、脱力するほどの杜撰さに情けなくて泣けてきたのを覚えている。発電所のくせに自分の電源は外からもらうのだ。それがNGの場合に備えて自家発電設備を持つが、その設備が津波を被った。何故にと思ったが、建設許可を早く得るため、想定する津波の高さを低めに見積もったとか。結果としてそれは錯誤であり、何もかもダメにした。そのくせ、全てダメになった場合の最後の手段は特段無かったというのだから恐れ入る。
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