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天使のアルバイト-109-

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 後は現実なのか、意識の中だけの出来事なのか、区別が付かない。
 医師の手を払いのけたようである。乳飲み子を狙われた母猫のように、誰にも奪わせない、という激しい気持ちがあった。それこそ猫が引っ掻くように、医師の手を拒絶した。
 そして、彼女は友を抱き留めた。覆い被さって抱え込んだ。頬をすり寄せ、手のひらで触れ、その体温を感じようとした。
 一緒にいよう、と呼びかけた。一緒にいたい、と願った。
 使者である自分と一緒にいるならば、何も失うものはない。
 失うものがあるとしても、自分ならば補充できる。
 お願いがあります……声なき声を、姿なき存在へ向けて、彼女は発した。
 私を元の姿に戻すか、永遠の別れでもいいから彼女を元に戻して。
 ならぬ……拒絶する意志があった。
 ならば炎を下さいと彼女は欲した。融合し一つとなるための、溶かす炎を彼女は欲した。
 ならぬ。再び意志があった。だが、意志はそれを阻止できないとも判った。
 彼女は炎を欲した。
 次の瞬間、彼女は炎の中にあった。白く揺らめく炎が彼女を囲繞していた。それはガスコンロが描く炎のリングを白色とし、リングの中に降りたようであった。強い白い光の向こうで、病室内のディテールが揺らめいていた。
 良いのか、意志は心配と動揺を伴い彼女に問うた。それは、炎の出現が意志の支配を離れた結果であることを教えた。
 答えは一つであった。彼女は子を抱く母となり、両の腕に友の身を横たえて炎の中にあった。
 問う者の存在を正面に感じた。肉眼に映らない。だがそこには馬の脚があり、馬車の車輪がある。ただ、頭を上げてその馬を、馬車に座したるであろう者を、見ることが出来ない。許されていない。
 問いに対する意思の開示を許可される。彼女は即座に肯定の意志を伝える。あなた様のお気持ちに見える心配の結果になっても構わない。引き替えに全てを失って構わない。この願い叶うならば、他の何も要とはしない。この命すら要ではない。
 

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