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天使のアルバイト-110-

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 と、突如強大な権限を馬車に座する者が発揮した。妨害者があったため、と判る。その者は、炎の壁を乗り越え、妨害するべく立ち入ろうとしたようである。無比の圧力をもって、この侵入者を排除する。
 彼女は気付いた。
 抱いた友の身の重さを感じなくなる。抱く自分の手指が、そのまま友の身に、さながら水面に指を立てるように、入り込むのが可能である。
 除した。馬車に座する者が伝えた。そして付け加えた。思い赴くままにして良い。
 彼女は謝意を持って頷き、愛しい友を抱きしめた。友の中に入り込むように、自分の身に友を取り込むように、友の身を抱きしめた。自分の腕が、自分の身体を捉える。
 自分であり、友でもある。
 示唆を得る。自分の求めた願いを叶える方法が伝えられた。
 ありがとう。彼女は安堵をもって示唆に応えた。身体が重力から切り離され、ふわりと浮遊する感覚が生じた。彼女はその感覚のままに少し浮揚し、腕に抱いた少女を見下ろした。腕の中で少女は瞼を閉じ、眠っている。
 ふと顔を上げる。顔を上げることが許されたのだと知る。視界奥の方、遠ざかる馬車の後ろ姿。
 壁をなしていた白い炎が消える。
 彼女は知る。その炎こそ、あの夏の日に、そしてここに来る前の線路際で、自分の身をその状態に導いた炎そのもの。
 セラフィムの炎。
 で、あれば、馬車と、そこに座する存在は神学に言うオファニムでありケルビム。彼女は思った。確信はない。ただ、高位存在であることだけは確かである。
 願いが、通じた。
 良かった。彼女に平穏が訪れる。溶けてゆくような気持ち。満たされるような気持ち。
 眠くなるような安心感と暖かさ。
 日蝕を終え、元の姿に戻り行く太陽を見ているような感覚。
 それは母に抱かれた幼子の得る、安心と充足に似て。
 彼女は腕を開く。抱いた友をシーツの上に戻すために。
「あ……」
 驚愕の混じった、母親のつぶやき。
 

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