天使のアルバイト-114-
19
心電図装置がリズミカルな電子音を室内に響かせている。
暖房は手頃。早暁であり、閉められたカーテンの向こうは、ほのかに明るい。動物たちが活動を始めたようで、スズメのさえずりが聞こえている。
「よいしょ」
少女は布団を跳ね上げ、元気良く上半身を起こす。
その勢いで、浴衣の下に何やらベタベタ貼り付けられていたものが、一斉にバリバリ剥がれた。
心電図装置がピーと警告音を発する。乱れる波形。点滅する赤ランプ。
「ひゃ。何?」
突然の機械の反応に、少女は声を上げて狼狽える。私、何か悪いことした?。壊した?
ベッドの周囲で、床に倒れ込み、意識喪失状態にあった大人達が、一斉に顔を上げた。
「吉井君!」
医師が反射的に叫んで機器に手を伸ばし、少女を見て目を円くした。
「……取っちゃ、まずかったですか?」
少女は剥がれたもの……心電図装置のセンサー電極を医師に見せる。
医師は唖然として目をしばたたく。
「君……沢口由紀子さん……だよね」
「??そうですけど?」
由紀子は首を傾げる。
そしてハッと気付いたように周囲を見回す。
白い壁、剥き出しの配管類、表示灯だらけの器具類。
模様の消えかけた素っ気ない浴衣。
腫れ上がった、まんまるの目で自分を見ている大人達。
「ここって?……病院!?……あれ。あれ……私……え?え?」
「君は学校で倒れ、担ぎ込まれた」
医師は言った。
「そうなんですか?」
由紀子は医師を見、他人事のように問い返した。
医師が頷く。
「そうだ。それで……うーん、どうにも説明しにくいが、事実だけ述べるとこうなる。昨夜、君は臨床的に死亡した」
「あら大変」
「しかし現在君はそうして生きている。しかもだね」
医師は一歩下がり、朝に向かう最中のカーテンを開けた。
窓ガラスに由紀子の姿が映る。
「へぇ!?」
今度は由紀子が目をまるくし、瞼をしばたたいた。
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