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天使のアルバイト-116-

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 由紀子はしばらく自分の手指を見つめる。
 そして、顔を上げる。
「お母さん。エリカは一体?」
「本当の名前はエリア。私に言えるのはそれだけ」
「エリア……」
 由紀子はつぶやき、もう一度手や腕を、そして映じた自らを眺めた。
「これが、この身がエリアだとしたらエリアは……。エリアの身体は?」
 由紀子はゆっくりと、医師の方を向いた。
「佐藤先生。と、なぜか知ってるんですが、人の心と体って一体……」
 尋ねる由紀子を、医師はひとしきり見渡した。
「僕が僕の見たままを学会に報告すれば、僕は追放だね」
「というと?」
「“心”の正体については、実はよく判っていない。脳という名のコンピュータにおけるソフトウェア、つまり情報の塊であって、実体はない、というのが通り一遍の見解だ。でも、それならなぜ“心”という文字を使う?“マイハート”などと言う?万国共通でここを指す?」
 医師は自らの白衣の胸を、手のひらで触れた。
「以前、患者さんがね、目の前で脳貧血を起こされた。『失神する』って。その時、『頭からケーブルが外れて胸の辺りに引っ込んで行くような気がした』、と言うんだ。他には海外の例だが、心臓移植を受けたら、そのドナーの記憶が入り込み、記憶のままに尋ねて行ったら、ドナーの親族に会うことが出来た。あと……良く君も聞くだろう。いわゆる『お告げ』で、事件や事故から回避したという話。『我思う、ゆえに我あり』というのはデカルトの名言だが、そうやって自覚している自我が果たして実体のない情報の塊なのか。申し訳ないけれど、僕にはこれ以上のことは言いようがない。ただ、君の言いたいことは、海外においては、超心理学という名で研究されていることは確かだ。僕はカルテには投与した抑制剤で寛解と書いておくよ。真実はそれこそ、僕らの“心”に収めておく」
 

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