アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-120-
船は甲板に家屋載せたまま湾奥へ進行を始める。炎と煙は未だ漂い、強い油の臭いは気分を害するほど。破壊された漂流物と船体との衝突が増え、応じた音がゴツゴツと船の各所から聞こえ、船体が左右に揺れる。
「……お手間は取らせません。あ、船で近場まで来ています。よろしくお願いします」
交渉成立か。画面の隅に地図と行き先表示の赤いピンが表示され、同じピンが船体カメラの捉えた画像にも表示される。
「行って下さい」
『了解。甲板、落とせ』
電話が終わるのを待っていたようである。木材破損のバリバリという音がし、船体が揺れ、水面へモノが落ちる大きな音。
『両舷全速、許容最大。INS使えない。各員衝撃と揺動に備えよ』
最大船速22ノット。おおよそ時速40キロ。漂流物とぶつかる音が大きくなり、船体の揺動も激しくなる。INS(いんす)はその手の衝撃を抑える作用を持つが、使用不可能であり、壊れるんじゃないかと思うほどの音がする。乗せている人々から驚く声や小さな悲鳴も。
「まもなく港に着きます!」
パニック防止に声を出す。それから程なく漁港へ達したが、地盤沈下で冠水しており、船を岸壁に付ける状況にあらず。
「停船できません」
「そのまま川へ。病院は川からアクセスする」
「アイ」
川を遡って行く。元々そのハイドロクローラを使って宙に浮くことすら可能である。浅い部分へ進行することは難ではない。
病院至近の国道橋梁に達し、投錨して堤防上にスロープを出す。
突然の見慣れぬ帆船は行き交う人々の目を引いた。
「突然すいません。助かった方を33名、運んできました」
レムリアは甲板から誰彼構わず言った。
「……病院ならあっちだ」
右方。
「避難所は……」
「もう少し奥の高台だ。一緒に行ぐが?」
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