アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-126-
「おーい、嬢ちゃーん」
聞き覚えのある声。
確かにお世話になったおじさん達である。無事な姿に涙が出そう。
だが、感傷は今はいい。
「皆さん良くご無事で!お怪我はありませんか!?」
「おお!嬢ちゃん!ありがとうなぁ。言った通り助けてくれてよ!」
アルゴ号と漁船は隣接した。
「突然銃が溶けたから驚いちまったぜ、ありゃ何だ?」
FELはラングレヌスが持っている。
「これです。映画みたいな奴と言うことで」
「そうかぁ」
少し状況を聞く。乗ってきたその船は知り合いの方の船だという。
「これは方浜(かたはま)さんの船だ。あいつら取りやがったんだ」
船首に立って周囲を見ていた“聞き覚えのある”男性が言った。名は市川(いちかわ)さん。賊は再三の外国人だったという。言葉遣いで判じたとのこと。
「これがあるってことは方浜さんになんかあったってこった。しかし……どこかわからねぇなこれじゃ」
見回す湾内は地盤沈下に伴う浸水で海岸線が変わり、夥しい数の家屋や車両の残骸が浮いて流れている。
タブレットで地図を出したら「家はこの辺なんだが」と指を差された。
その“座標”に目を向けると、津波に襲われ、現在は火の手の中のようだ。海水で消そうにも逆効果なのは、黒くギラギラした油膜が教えてくれる。
「行こみゃあ」
相原がぼそっと言った。それは唐突な名古屋弁であり不謹慎にも感じたが。
「ここで考えても仕方ない。その間にも時間が過ぎる。まず現場主義だ。名古屋のロケットメーカーがよく言ってた。行くぞ。あさひ丸さんは牽引します。燃料の節約もあるし、多分我々の方が早いかと。これを」
ロープを出して船を引っ張る。海岸まで1.1海里。相原が準天頂衛星の画像を拾うと言って操舵室へ戻る。
火災のエリアに近づき輻射熱が痛い。そこは海というより漂う炎の一帯である。ガレキが入り込めば炎があっという間にそれを包むのであろう。だが今は、炎の中に燃えさかる建造物など見えず、ただ海面を火が覆ってうごめいている。
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