【理絵子の夜話】差出人不明-4-
そして自分はそう、まじめぶった優等生で、いつも先生に優遇され……。
その時。
まただ。理絵子は自分の下駄箱に手を入れる前にそれと判じた。
「またかよ」
眉を曇らせる理絵子を見て桜井優子がコメント。
「うん」
理絵子は下駄箱のふたを開き、靴と共にそれを取り出した。
封筒。有名な猫のキャラクターを使った可愛い封筒。“黒野理絵子様”……小さなピンクの字。それは“学校中の男子の憧れ”具体化の一形態。
自分がこれのために妬まれていることは良く知っている。
但しそれは理絵子の自意識ではない。周りがそう思っていると如実に判るのだ。目で見えるかのように、耳に聞こえるかのように。
理絵子は声にならないため息をひとつすると、靴を履きながら封筒をひっくり返した。どこのクラスのどなたさん。
「ん?」
思わず動作が止まる。
差出人の名前がない。しかも……
「……なんだそれ。焦ってテメエの名前書くの忘れたんじゃねぇのか?」
桜井優子が覗きこむ。
理絵子は首をかしげる。違和感。この言い知れぬ違和感は何。
何か違う。いつものこの手の手紙と違う。
読まなきゃいけない。中を開かなきゃいけないという悲壮なまでの何かを感じる。
「おいおい開けちゃうのかよ」
封を切り始めた理絵子に桜井優子が目を大きくする。
「気になることがあってね」
「お前得意の“勘”って奴か?最もお前の場合、勘通り越して殆どエスパーだけどな」
桜井優子の言葉に、理絵子は一瞬手を止めたが、開封を再開した。
理絵子には、まだこのクラス唯一の友達に言っていない、秘密がひとつある。
それは。
封筒から手紙を取り出す。封筒と揃いのお手紙セットであろう、同じ猫のキャラクターを使った便箋。
感じる。悲壮なまでの“会いたい”という気持ち。会いに来てという切望。
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