【理絵子の夜話】差出人不明-5-
文面も“伝えたいことがあるので会いに来て”という内容ではある。しかし文面以上にその気持ちが強いことが理絵子には判る。必死を通り越し、泣きながらの、命がけの、強い思い。そんな感じ。
判ってしまう。
理絵子には言葉を交わさずとも、文字にしなくても、心の中が直接判る不思議な能力が備わる。
でも、誰にも言ったことはない。警戒されるに決まっているからである。そしてもちろん、恣意的にその能力を行使することはない。
心の中を覗く趣味はない。
「……4丁目の踏切ってどこだっけ」
理絵子は桜井優子に尋ねた。手紙の主は8時に、その踏切に来て欲しいと書いている。
「4丁目?……ああ、あれだろ。例の踏み切り」
「あそこ?」
理絵子は眉をひそめた。
その踏切を知らぬ者はこの町内に一人もいない。
住宅街にあり、人通りが少なく、カーブ線路の終わりに位置する。
周りに人目はなく、列車の運転士からも見づらい。
自殺の名所。
「行くのかよ」
「これじゃ返事も出せないし……そういう場所ならなおのこと」
理絵子は手紙をちょろっと見せた。
本文にも差出人の名はない。
「引っかけじゃねぇの?てゆーか一種の脅迫だろ。来ないと飛び込む、みたいな。ひょっとするとそういう脅迫に見せかけて別の目的」
「ならいいんだけど」
理絵子はため息をついて手紙をカバンにしまった。
そういう“作戦”ならそうであると手紙から感じるはずである。しかしそうではない。
「しょーがねーな。お人よしというか優しすぎるというか……」
と言う桜井優子の声をさえぎるように大型バイクのエンジン音。
校門から中へ入って来るバイクが一台。ライダーはノーヘルメットの茶髪男。
「優子」
ボーイフレンドである。
「あ、じゃぁな」
桜井優子は一言残して走り出した。
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