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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-134-

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「その場にいる者総力戦だよ。原始時代はどうしてたんだ、って想像すりゃ判るじゃん。お母さん聞こえますか?過呼吸気味です。吐いて。息を吐いて。ふーですふー」
 ふー、というのはラマーズ法の“息を吐く”の動作。
 レムリアはゴーグルを人体サーチモードにした。同一箇所に心拍2つの旨表示が出る。母体と胎児である。心拍を音声化し、モニタに回す。
 どくんどくんどくんどくん……胎児の心音が早い。
 生まれ出てこようとしている命の音。
「痛い……」
「逃がして逃がして。ふー、ふー、ふー」
 レムリアはゴーグルを外して母の腰元にサージカルテープで貼り付けた。
 液晶モニタに心電図波形。
「いきみたい……だめ、ですか」
 母は言った。
 初産でこのタイミングは早い。レムリアは思ったが、その気持ちが自然のものならば話は別。
「どうぞ」
 相原はモニタしている鼓動に神経を研ぎ澄ました。いつぞや読まされたお産の父向けのコラムに曰く、“いきんで、娩出する”というメカニズム自体は排便と変わらぬという。胎児が同じ神経を刺激し、同じ動作を起こさせようとする。
 ただし。
 絶叫が母の口を突く。同時に胎児の心音テンポが下がり、波形の心電図パルスの間隔が広がる。もし母にこのリズムの差が聞こえていれば、鼓動はそのままゼロになるかと不安になる向きもあるかと思われるほど。それは、いきむ行為の最中に、胎児にも大きなストレスがかかっている証し。
 同期して母体が目に見えて判るほどギュッと縮む。陣痛、である。筋肉に最大の力をもたらすのは、痛みへの反射と怒り。その双方を動員して、文字通り命がけで胎児を送り出す。怒責効果(どせきこうか)と呼ぶ。
「叫ばない。声が出ないように我慢する。力が声になって逃げてしまう。口を閉じて、声を出さないで」

 

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