アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-135-
命令口調で指示する。これは“考える”という作業をさせないため。そも考える余裕など無いので、言われたままやっていれば良い状況を与える。
が、母がそれを試みる前に胎児の心拍が急回復した。痛みが去り、産道の収縮が解けたのだ。もちろん、終わりではない。陣痛は波のように訪れては去るを繰り返し、その都度、産道が収縮し、少しずつ胎児を母体から送り出す。
母は額に汗が玉を成し、はぁはぁと荒い息。
「学、水」
「はい」
“吸い飲み”に入れた経口補水液を母の口へ。
母はそれをごくごく飲んだ。
発汗が止まらない。冬の朝の窓のようにだらだらと流れてしたたる。
「子どもは……」
「私の声が聞こえますか?大丈夫、元気です。ママ会いたいよって。痛みは波があります。また痛くなります。収まります。その繰り返しで少しずつ。身体からの気持ちに合わせて動いて下さい」
息づかいがまたぞろ荒くなり、目の焦点が合わなくなる。
「あ、あ……」
「その気持ちのままに。経験したことの無いその気持ちのままに……」
「生んでやる……」
口走る。“怒”責効果である。お産の最中のうわごとや暴言もこうした結果である。
「いきんで、吐いて。いきんで、声を我慢」
それでも多少の声は出てしまう。流れ出す透明な“母の海”。
および血液。
ステンレスのバットに血が溜まって行く。胎児と胎盤の分離、胎盤自体の破壊、産道の拡大に伴う傷など、出産に伴う出血因子は枚挙にいとまが無い。人により輸血を要する。
出産は命がけである。
イヤホンにピン。
「学頼む。今無理」
「はい。今取り込み中です……ああ、先生」
相原はモニタの内容を操作して船の位置を確かめた。
さっき遡った川の中病院の近く。
『船が見えたのでね。様子はどうかね』
医師が訪ねてくれたのである。
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