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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-137-

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「大丈夫です。お母さん吐いて。声出して吐いて。ふぁー、ふぁー、ふぁー……」
 そう発声せよというのだ。ラマーズ法の“最後のアクション”である。もういきむ必要はないので力を抜かせる。
 母は両腕を胸の前で合わせて、声を出した。
 胎児が母体を離れる。
 母親は顔面蒼白。
「あの……」
「生まれました。おめでとうございます。男の子ですよ。学、新生児の身体を拭きます。お湯とガーゼを」
「了解」
 新生児をタオルにくるむ。産声を上げないわけだが、それは個人差。レムリアはベッド下から細いビニールの管を引き出した。新生児の鼻の穴から肺へ挿入し、口で吸う。胎内で飲み込んだ羊水を吸い出すのである。
 口に達してそれと気づく。海の味である。羊水は体内に海洋を整え、胎児はその海洋で40億年生命進化を再びなぞると言われる。
 ビニールの管から母の海が流れ出る。
 新生児の身体が震えた。肺と気道を塞いでいた羊水が取り除かれた。
 口が開かれ、
 空気の通る音がして。
 誕生の声。
 最初小さく、そして徐々に大きくなる生命始まりの声。
 母体からの酸素供給が自分自身での呼吸に変わって行く。
 僅かな時間でへその緒の機能は収束し、肺胞が風船の如く開いてガス交換を開始する。応じて心臓回りの血管閉塞と流路変更が行われ、自己完結で巡り始める。
「臍帯の停止を確認」
 へその緒を握って様子を見ていた医師が言った。内部を流れる血流がもたらす振動や、伴う“温度”を触覚で確認していた。
 相原が手桶とガーゼを持って来る。
 大きな泣き声。人が生まれて最初に発する声。産声。
「元気ですよ」
 レムリアは新生児を母の胸元に載せた。
 紫色だった肌の色がみるみるピンク色に変わって行く。湯上がりのそれに似たシワが取れて行く。

 

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