【理絵子の夜話】差出人不明-9-
いやな感じがする。そして、その感じに絆されるまま、慌ててかばんから手紙を出す。いきなりの手紙ごめんなさい……
……18時に4丁目のJRの踏み切りで待っています。
18時!
8時じゃなくて18時。すなわち午後6時。
いやな感じが意味するものを理絵子は悟る。そして、身体が震えだすような気持ちと共に、花束に、目を向ける。
あの花束は……。
理絵子は踏み切りに近づいた。
と、カーブの向こうから反対方向の電車のライト。
プァーンという警笛。
理絵子は立ち止まる。電車の運転士が、踏み切りに向かう自分の姿に“それ”と受け取ったのだと感知する。
電車を見送る。花束が至近を行く電車の風圧で舞い上げられ、車輪に巻き込まれ、散り散りに引き裂かれ、花びらが舞う。
まるで、何かを象徴するように。
電車が去った後も、理絵子はしばらくそこから動けなかった。
恐らく花に触れさえすれば、自分に備わった超絶の感覚が、この花束の意味するところを知るであろう。しかし同時に、そうすれば何が判るかを、既に今の時点で知っている気がする。
自分が多分、“彼”を見殺しにしたことを。
彼に絶望と悲嘆を与え、この冷たい鉄路の上に立たせたことを。
後悔しているのか、と意識の内に問う者がある。肯定せざるを得ない。理絵子はゆっくりと首を縦に振る。そう、私は人を死に追いやった。
人を死なせた。
まぶたを濡らす温かいものと共に、意識の内に溢れ出すものがある。なぜ。
なぜ、私は、人の気持ちを知ることが出来る稀有の知覚を持ちながら、彼の……死ぬほどの真剣さに応えてあげなかったのか。
時間ミスなどという単純で大きな間違いを犯してしまったのか。
それはお前が元より人の心を軽んじていたからだ……意識の内の声が言う。お前は自分が男子に好感を持たれる外見と知り思い上がり、挙句、傲慢にもそれを当然として男子を外見や所作で分けるようになった。その“力”を弄び、自分に都合のいい声ばかりを捉えるようになった。
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