【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-02-
〈こんにちは、エウリディケさん〉
〈こんにちは。彼女はだいぶん疲れが溜まってる。ハチミツが欲しいんだけど〉
この辺の会話はもちろん音声ではありません。意志と意志との直接交流……人間さんの言うところのテレパシー。
「え?あ?こ……」
涼はどこからともない“声”にキョロキョロ。彼女の意識には私が送り込んでいるのですが、恐らく、イヤホンで聞いたように、脳が声に結像したはず。
「ハチミツを分けてくれるそうです。一緒に」
私は手を伸ばし、涼の手のひらを取り、引っ張って歩き出しました。
足元の草むらは、足を下ろすたび、なにがしかの虫が飛び、緩く風があって、遠く雑木林の木ずれがサワサワと聞こえ、青い空にはヒバリの声。
〈エウリーさんだ、エウリーさんが人間の女の子を連れてきた〉
そのヒバリたちが(心の中で)騒ぎ立てます。
「はいはい。彼女は歌手ですよ」
〈歌手はどんな歌を歌うの、どんな歌を歌うの〉
童話に出て来るお喋り小鳥そのものです。そしてそんな印象を持ったのでしょう。涼は立ち止まってクスッと笑うと、空を見上げました。
「♪~」
ケルティックな楽曲。ただ、それは、涼がテレビで歌うポップスとは違います。
〈妖精さんの誰より上手い〉
「失礼しちゃう。でも、そっか、涼はアイドルは不本意なんだね」
「うん……」
出来ることとやりたいことと、現在受け入れられていること、一致すれば幸せですが、そうならないこともありましょう。不本意から始めて最終的に本来の目的、という方もいれば、求められることを仕事にすることで妥協、という方もいます。
対して、彼女は、人生を途中で断とうとした。
本来、そういう心には人生アシスト役の天使さんが気づくはずです。ただ、“天使の考え”を強制する権限は無いので、人間さんがその声を聞きに行かないと、聞こえないまま。
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