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【理絵子の夜話】差出人不明-10-

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 理絵子は、ギクッとした。
 否定……できない。確かに、この手紙が入っていると知ったとき、ああ、またか、と思った。
……断るのが面倒だと思わなかった、とは言えない。
 内なる者が続ける。お前はお前に言い寄る者たちの心の中が見えていない。なぜなら茶飯事で面倒くさいために、表面だけで応じようとしているからだ。その真意の一つ一つを汲み取ることをせず、適当にあしらっているのだ。実際、お前がここに来たのだって、相手が真剣だからとお前は表面上うそぶいているが、その実、死なれては困るからだ。今動揺しているのだって死なれたからだ。彼が可哀想だなんてカケラも思っちゃいない。死なれちゃったどうしよう、に過ぎない。死という結末に困っているだけで、彼にそれを選ばせたことに思いを馳せたわけじゃない。違うか。ごめんなさいではなく、なぜ死んだの?だ。違うか!
「やめて!」
 理絵子は声を上げ、耳をふさぎ、目を閉じてしゃがみ込んだ。
 聞きたくない。決してそんな風には思っていない。だけど聞きたくない。
 理絵子は首を左右に振った。しかし内なる者は容赦しない。
-『そんな風に思っていない』と思い込みたいだけだ。お前は彼の気持ちなどカケラも考えちゃいない。
 そんなことない!理絵子は反駁する。私には判る。彼がどんな思いで私を待ち、落胆し、ショックを受け、そして……。
 理絵子は見た気がした。
 想像力のなせる技か、稀有の力が働いたのか、それは判らない。
 だが、その視点は紛れもなく彼のもの。
 高速で迫り来る銀色の電車を見上げ、ついで一瞬にしてブラック・アウトする。
 そして、その先は何もない。
 死という名の消滅。
 その恐怖をすら上回る、自分に裏切られたショックとはいかほどのものだろう。
 

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