【理絵子の夜話】差出人不明-11-
謝りたい。理絵子は切に願った。叶うものなら彼と会い、全てを謝罪したい。
時間に遅れたこと。
そして、決して軽んじたわけではないが、真摯だったかといえば、そうではない、ということ……。
そこで内なる者が口を開く。-楽にさせてやろうか。
理絵子はハッとして意識を傾ける。-お前の稀有の力は、既に身を持たぬ存在とも意識を交わすことが出来る。それは知っているな。
理絵子は頷いた。いわゆる霊的存在……意識だけの生命と彼女はコミュニケートできる。
気づいて顔を上げる。トンネルを思わせる暗闇の中に白い部分がある。それは“蠢く靄”と形容できようか。
行け……促されるまま、理絵子は立ち上がり歩き出す。その白い靄から感じる自分への視線。
対峙。
理絵子が見つめる中、白い部分が生き物のように動き出し、変化を始める。
次第に薄ぼんやりと浮かんでくる白い形。
それは大きい。理絵子の身長をはるかにしのぎ、見上げるほどもある。
顔だ、と理絵子は思う。そう、その白い形は人の顔の輪郭に似ている。
白い形が更に変化する。顔で言うなら目の位置に、黒い丸い領域が二つ現れ、それこそ目のような形が浮かぶ。
白い顔に二つの黒い目。
いや、“目”じゃない。
理絵子は慄然とした。
“目”の下に現れる今度は鼻に似た黒い形。
そして、鼻に似た部分の下に、ぞろりと並ぶ剥き出しの白い歯。
唇も歯茎もなく、根元まで見える歯。
鼻に見える黒い穴。目に見える黒い二つの穴。
頭部には毛髪も皮膚もなく、ただ白い。
その姿は。
髑髏。
巨大な髑髏。
暗闇に忽然と浮かび、自分を見据える巨大な髑髏。
理絵子は声も出ない。同時に、その髑髏が“彼”などではないことは容易に知れた。
激しい毒念。憎悪と殺意。
だまされた。その思惟は自然に意識に浮かんだ。
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