【理絵子の夜話】差出人不明-12-
と、その思惟に呼応するように、髑髏の顎(あぎと)が開く。
ニンマリと笑うかのように、Vの字に裂けて開く髑髏の口。
髑髏が動く。瞳なき目で自分を見、自分に向かって接近を開始する。口を開き、自分を食らう意思を明確に、ゆっくりと、確実に、自分に、接近する。
理絵子は気づいた。
これは。
この存在は。
太古より髑髏の姿を持って描かれる、破滅の象徴。
死神。
今ごろ気づいても遅い。死神が嘲笑したように思えた次の瞬間。
状況が変化したことに理絵子が気づくまで、刹那の時を要した。
迫り来る白く明るい二つの光。
カンカンという踏み切りの音。
続いてファーンという電車の警笛。
それは、踏み切りの真っ只中に立っている自分に向かい、2つのヘッドライトを灯した電車が接近してくるという現実。
その時、理絵子は死神の嘲笑を本当に声として聞いたような気がした。
そして、罠に落ちた彼女を、悔恨を抱く彼女の心理を、その“声”が嘲り笑う。それは死神の意志表示であると気づく。
曰く、“ざまぁみろ”。
だめだ。理絵子は思った。
電車の押す空気が、風として理絵子の髪を流した。
その次の刹那。
「りえぼー!」
良く知る低い声が掛かった。
女の声。強い声。
声の出現と共に、死神の嘲笑も、そのイメージの残像も、電源を抜かれたテレビのように、忽然と掻き消えた。
次いで彼女の心理を温かく包み込むものがあり、
同時に彼女の小柄な身体が、強い腕にしっかりとホールドされた。
電車のライトが視界から大きく逸れる。
その瞬間、電車から発せられたバシャーッという空気の吐出音と、ひときわ長い警笛。
非常ブレーキである。車輪とレールが擦れてキーと音を立て、火花が散る。
理絵子は目の前を電車の床下機器が行き過ぎてゆく様を見ている。
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