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【理絵子の夜話】差出人不明-13-

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 ブレーキシステムが発する金属の焼けるような臭い。
 10両編成の7両ほど行きすぎて、ガクン、と電車が止まった。反動で後ろへ車体がしゃくり、中で乗客が大きく振り回される様が見える。
 その乗客らが体制を立て直し、窓越しにこちらを見ている。
「こらっ!」
 電車の後尾、乗務員室から声がした。
「やべっ」
 低い声が短く言い、理絵子の手を引いて走り出す。
「あっ。待てっ!」
 線路に下り、砂利の上を走ってくる音。
 理絵子は手を引かれるまま走る。線路の砂利や枕木などの造作は思ったよりも大きく荒っぽく、こけつまろびつ。ただそれは乗務員氏も恐らく同じ。
 踏切から街路に出、住宅街を右に折れ左に折れ、細い路地に入り、小さな神社の境内へ。
 壊れかけた祠の裏へ回り込み、しゃがむ。
「ここまでは来ないだろう」
 低い声が、息を弾ませながら言った。
 理絵子はそこで初めて顔を上げ、声の主を見た。
 とはいえ、誰だかは知っている。桜井優子である。
 ジャージ姿で肩で息をし、理絵子を見るその目はまるでお姉さん。
「まだ何も言うな」
 桜井優子は言うと、あたりの様子を探ってから理絵子の腕を解いた。
「あの手紙、騙しだったらヤバいなと思って、来てみたんだ。どうしたよ」
 桜井優子はそれこそ妹に問い掛ける姉のように言った。
 理絵子はその目を見た途端、自分の涙腺が開放され、温かいものがまぶたを乗り越え、とめどなく溢れ出してくるのを感じた。
「怖かった。怖くて……」
 理絵子は言うと、続けて一気に、迸るように全てを話した。
 自分の能力のこと、そして出会ったものの正体。
 桜井優子なら判ってくれる、そう思って全てを隠さず話した。
 そして。
「死神か……」
 理絵子の話が終わった後、少しの間を持って、桜井優子がつぶやいた。
 

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