あとがき~アルゴ号の挑戦~
「前に、前に」書き終えての率直な感想である。何が起こるか知識として知っておき、可能な範囲で予知、必ず出来る直前警報、そしてすぐに避難。これらをすべからく強制的に通知する手段。
「起こってから」一つ一つに対処するのは膨大な時間を失うのである。3分早く知るだけで100人1000人の命が救える。比して事後72時間で救える命は余りに少ない。
東北地方太平洋沖地震では、情報自体はどんどん更新され、流されていたが、現地でそれを受け取る手段が無かった。停電によりテレビは見られず、携帯電話は電波が輻輳。「津波の高さ10メートル以上」これを現地で知り得た人がどれだけいたか。知り得なかったから、あれだけの人命が失われたのである。21世紀になって、先進国日本で、自然災害で2万とか何事ぞ。
実はこれを書いている時点で、ネットで見かける気になる書き込みに以下のようなものがある。明日の天気は?えー降ってきた聞いてないよ。
んなもん、今これを読んでいる多くの人が「調べておけば出て来るし、リアルタイムの情報取得も可能だ」と思うであろう。が、それは多数派ではないのである。「自分で調べる」がアクションアイテムとしてそもそも存在しない人も多いのだ。ネットで人づてに訊く行為は滑稽に映るが、そうした人はネットがコミュニケーション手段でしかないのである。ここに「強制的に押し込む」必要性が発生する。
ただ。
現状、その手段は防災行政無線、携帯電話のエリアメール、程度である。よしんばそれらで危機を知っても「その後どう動くか」プランが何も用意されていない人の何と多いことよ。況んやネットで人に訊くレベルの人が如何なものか、推して知るべしであろう。
さておき、話中で幾つか現在の技術で可能な減災システムの提案を行った。衛星からの一斉送信であり、端末の移動を追跡しての避難方向指示である。また、現況把握にも衛星を用いた。「準天頂衛星」である。詳しい説明は省くが、赤道面に対し斜めに軌道を配することで、日本の真上に衛星を通すことが出来る(気象衛星「ひまわり」は赤道の上空にいる)。これを使った所在把握サービス、緊急警報サービスが実際考えられている。また、本作では“空飛ぶ船”が出てくるが、これを飛行船に置き換えると、上空からの把握と指示、無線中継等はそのまま実用に供せられることに気づくであろう。そう、現実離れした内容では無いと考えている。
ただ、ただ再び。
例えばこれは仙台空港である。滑走路上から海は見えず、ここが津波に覆われたなど想像しがたいであろう。携帯の位置情報から逃げろと情報飛ばしても、受ける側がそれに対応してアクションしないと何の意味も無いのである。出先の地形と避難所を常に把握することは困難であるから、位置情報に応じてナビゲーションが起動する位は必要と考えるが、その指示に従うかの最終判断は情報を受けた個々人である。「言われた通りにしなさい」という教育が必要で、その根拠として震災で起こった事実の周知が欠かせない。
あれだけの大災害をたかがネットのファンタジー物語に取り込むことを不謹慎と思われる向きもあろうが、その能力を持っても「単位時間当たりに救助できる人数」がいかほどのものかはイメージできたのではあるまいか。本作の趣旨はそこにある。そして、予防保全として、「何が起こるか」知ることと「取るべき行動」を知ることが実際に必要なことである。そこが喚起できれば本作の目的は達する。但し、失われた御霊に報いるのは、「次」に同じことが起こらないという事実を達成できた時点となる。それは南海トラフかも知れない、三陸沖アウターライズかも知れない。富士山の噴火かも知れない。
日本は1944/46年の南海トラフ以降、真に巨大な地震に対峙することなく過ごし、応じた危機意識の不足は否めないであろう。
その不足を補う時間はあまり多く残されてはいない。南海トラフの典型、宝永地震から300年が経過した。
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