【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-05-
えーと。
「子どもが、不思議な夢を見る。聞いたことある?」
「ああ、うん。私の今がそうかも、って思ってるとこ」
「あれね、多くの場合、心だけ、ここに来てるんだ。“物心つく”っていうのは、そういうのが不可能な状態になること、と考えてくれればいいや。でね、ヒバリが言いたいのは、そうやって来ている子どもがいるから、安心して欲しいので歌を聞かせたい。それを涼に歌ってほしい。そういう意味」
〈そういう意味、そういう意味。涼、歌って、歌って。涼、歌う人〉
涼はため息。諦めたような。
「歌う人、か」
ヒバリがじっと見つめて答えを急かします。涼は小瓶のハチミツを一口、指に絡めて舐めて。
「いいよ。どこ」
〈王宮、こっち、こっち〉
飛び立ちます。とはいえ彼女は人間。空飛んで付いて来いと言われても。
「ちょっと待って。私飛べ……」
地上の人間世界なら当然無理。しかしここは。
「大丈夫」
私は涼を抱きかかえ、背中の翅に羽ばたけ。
実のところ私の体重は1キロも無いので、40キロオーダーであろう人間さんを飛ばすのは一苦労。
が、不可能ではありません。遠い遠い昔、人間さんの世界において、妖精の存在が認められていた頃には、その力を使って迷子を送ったり、落下事故に対応したり。ギリシャ神話にあるように人間さんと結婚した仲間すらも。
しかし今、妖精なんかいないとされています。なので、大いなる意志が認めた場合以外は、人前への出現は許されていません。
ヒバリを追います。草むらを抜け、高度を上げ、山の上にある白いお城へ。
「腕一本で抱かれているだけなのに、それはとても怖いことのはずなのに、何だろう、この安心というか、癒やされ感」
「それは、ここも天国の一部だからでしょう」
涼の独り言に、私はそう答えました。
城に近づき、緑に囲まれた姿が次第に視界を圧します。
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