【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-06-
山の中腹、ほぼ平らになった部分に広がる一面の芝生。城壁はなく、白い大理石のお城があります。ここはいつも、冷たく冴えた空気が流れ、でも寒くはありません。雲の中ならゼウス様がお住まいかしらと思うようなたたずまい。ここは妖精と人が共に暮らしたギリシャ神話の時代、そのままです。
「うわぁ、本当にお城だ」
「うわぁ、本当にお城だ」
城の前、芝生に降り立ち、涼の手を取って歩いて行きます。天井高い玄関ホールの大理石に足を置くと、冷たさが足の裏から伝わり、私たちの足音が、トン、っと僅かに響いて広がります。
すると、門番小屋(と、私たちが呼んでいる)小部屋から飛び出してくる私と同じ白装束の姿あり。
「まーた人間の女の子連れてきて!」
ぷんぷん状態はミレイさん。人間さんの企業・工場なら守衛さんに相当する役どころ……であり、地球の精霊、ガイア様の秘書官。
「聞いてないけど」
〈頼んだ。自分頼んだ。涼に頼んだ〉
私はホバリングしてそう言うヒバリに手のひらを向け“この通りでございます”。
「エウリーって結構なし崩しにルール破るよね。地上禁止になっても知らないから」
「ガイア様のご沙汰を待つよ」
文句言いつつ、静止はされません。私たちは中へ入ります。石造りの大きな建物内奥ですから、例えばビルだと照明がなければ真っ暗でありましょう。でもここは、かなり中に入っても、大理石の色そのままにほんのり白く、歩くのに不自由はありません。入り組んで迷路のようになった通路を右へ左へ。
日の当たるところへ出ました。草むらで、ちょうちょが多数ひらひら舞い飛んでいます。
ベッドが一つ。男の子が横たわっています。
6歳位。小学校の体操服という着衣でしょう、白いシャツに名札の縫い取り、黒い短パン。
まどろむような目で。
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