【理絵子の夜話】差出人不明-14-
「およそバカバカしいでしょ。笑って」
「そんなことねーよ。お前の勘というか鋭さはハンパねぇと思ってた。お前がそういう力の持ち主だと聞いて、ああなるほどなぁと納得してるところだよ。やっぱりお前はエスパーだったんだ」
理絵子は頷いた。
何度も何度も涙と共に頷いた。
やっと判ってくれる人が現れた。その思いに満足しながら、安心しながら。
桜井優子はしばらくの間、片腕で理絵子を抱き、頭をなでてくれた。
そして、随分と時間が経った頃、桜井優子がゆっくり訊いた。
「それで?死神が?」
「私を、殺そうとしていた」
理絵子は、ようやく収まった目の下の洪水を拭き取りながら、答えた。
今にして思えば、あの“意識の内なる声”、「後悔しているのか」と意識の内に問うた者こそ、死神の意識そのものだったのだと判る。誰にでも起こりうる心理的動作……自問する自我……に似せて理絵子の意識に忍び込み、巧みに誘導し、線路に立たせたのである。
そして、そうしたことが出来るくらいだ。他の人の心にしのび込んでウソ手紙書かせるくらい造作もないだろう。従って当然、“彼”など、ここに来てもいないし、ましてや自殺などもしていない。
差出人が不明なはずである。
「いつのまにか心を操作されるわけか。おいおい冗談じゃねーな」
桜井優子は語気を強めた。
理絵子は頷く。さもあろう。自分の“考え”のつもりが、いつの間にか何者かに好き放題“誘導”され、本来の自分ならあり得ない結論を導き出される。
自分が自分でなくなるのである。
「よぉ、ひょっとして通り魔とか、よくあるナントカ喪失で無罪になっちゃうひどい事件って……」
「かも、知れない。あれは死を望む存在だから。何か隙間があればそこに入り込む。たとえばあの踏み切りだったら、傷ついた心持つ人が近づくと現れ、その心の傷口から忍び込み、更に追い込み、攻め立て、線路の上に立たせている。そんな気がする。だから……」
「だから自殺が多い」
「恐らく」
理絵子は言った。
そして、自分は、その死神に狙われた。
心に隙間……それこそ思い上がりがあったためか、それとも別の理由か。
どっちにせよ、あんなのに目を付けられている、ということ。
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