【大人向けの童話】謎行きバス-05-
他に、だれか乗っている感じはない。
「お乗りになりますか?」
左手よりの声に雄一は少しおどろき、体をびくりとふるわせた。
見ると、制服にぼうしの男性。自分の父親よりずっと年上。おじいちゃんと言ってもあながち外れてはいない感じ。運転手さんか。
雄一を見てニッコリ笑うと、顔中にシワ。
その表情に、雄一は亡くなった自分のおじいちゃんを思い出した。夏や冬の休みに遊びに行くと、新幹線のホームでこんな笑顔でむかえてくれた。
似た感じ。優しそうな感じ。
どこかへ連れて行かれる、〝謎行きバス〟という感じではない。
「あ、はい」
雄一は思わず答えた。ジャージのポッケに入っている五百円玉を、ぎゅっとにぎりしめる。
「そうですか。ではどうぞ」
「はい」
乗りこむ。ステップを上がるコツコツという自分の足音。自分の重さで、バスがわずかに左右にゆれるのを感じる。
少しツンと来るにおい。油というか、ペンキというか。……ちなみに、ゆかの木の板にぬられた、ニスのにおいなのだが、雄一はそうとは知らない。
乗客の姿は無し。
プシューと音がして、前のドアが開く。
「お好きな席へどうぞ」
やはり運転手さんである。男性は、開けた前のドアから乗り込みながら、雄一に言った。
「はい」
雄一は一番後ろの、横長シートの窓際に、腰(こし)を下ろした。この席は、カーブやデコボコを通ると、グワングワンゆれるのでオモシロイのだ。シートの下からブルブル伝わってくる、エンジンのしんどう。
運転手さんがイスに座る。
前のドアがプシューと閉まる。
『センター前行き発車時刻です。本日はご利用ありがとうございます』
スピーカーからの声が聞こえ、プーとブザーの音がして、後ろのドアが閉まった。
『発車します。次は終点センター前です』
え、と雄一は思った。
次は終点?
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