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【大人向けの童話】謎行きバス-06-

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 バスが動き出す。ゆっさゆっさと左右にゆれて、バス停をはなれ、広域農道をギアチェンジしながら加速し、真っ直ぐに西へ。
 見慣れた景色が後ろに流れ、だんだん、あまり見ない景色へと変わって行く。
 しばらく走る。となりの学区。知らない中学校。花見のニュースでよく見る桜並木。
 左折、右折、国道を横切る。高速道路をくぐって、鉄道のふみきりを渡(わた)って。
 適当にゆれながらバスが走る。そのゆれと、背後からの日差しが心地よい。今の雄一は、連日の早起きでちょっと寝不足(ねぶそく)。そして、バスに乗れてひと安心したところ。
 心地よいのに任せているうち、雄一のまぶたが下がって行く。
 
 
「ぼく、ぼく」
 呼ばれているのが自分で、かたをゆさぶられていることに、雄一はようやく気付いた。
 いっしゅん、置かれているじょうきょうが、理解できない。
 自分をのぞきこむ、シワとしらがのおじいちゃん。
 えーと。
「終点ですよ」
 謎行きバスに乗ったことを、ようやく思い出す。
 がばっと身を起こす。自分はどうやら、横長5人がけの座席に横たわり、くてんくてんになって、ねていたようだ。
「あの……」
「気にしないで。センター長がお待ちですよ」
「センター長?」
 よく分からないが、終点ということなので、とにかく降りなきゃならない。
 乗った時と同じドアから降りると、目に飛び込んできたのは、考えてもいなかった景色。
 おおいかぶさって来るような木々、木もれ日。夏の名残のセミの声。
 ツクツクボウシが輪唱している。
 その中の、細い道に止まっている、布引バス。
 目の前には、小さい学校と言っていいような、建物と運動場からなるしせつがあり、『木の実センター』と木のカンバンに書いてある。
 センター前のセンターは、これのことか。
 そういえば。
「あの料金は……」
 

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