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【大人向けの童話】謎行きバス-07-

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「ん?いらないいらない。このバスは、センターが送りむかえに使うバスさ。路線バス風に仕立ててあるだけ……聞いてないのかい?」
 それはすなわち、謎行き、どころか、路線バスでもない。
 このセンター独自のバス。
 え……え……。雄一は、〝なんかマズイことになってきた〟という気持ちがしてきた。自分は、何か、来てはいけないところに、来てしまったのではないか。
「今度はその子?」
 センターのしきちの中から声がし、夏用セーラー服に三つ編みのお姉さんが、サンダル姿で走ってきた。白い半ソデのその白が、目にまぶしい。
「ああ由美(ゆみ)ちゃん出がけにごめんよ。センター長は?」
「さっき、ようへい君が取りやめってクルマで……あれ?じゃぁこの子は?」
「え?バス停で……。君、かのうようへいくん…だよ、ねぇ」
 運転手さんと、由美さん……というらしいそのお姉さんに、雄一は見つめられる。
 つまり自分は、本来、〝ようへい〟が乗るべきバスに、勝手に乗ってきた……
「あ、あの」
「きゃぁ!」
 実は……、と、言おうとした雄一の声を、由美さんの悲鳴に近い声がさえぎった。
「虫、虫、いやぁ!」
 セーラー服のエリ元に付いた小さな虫を、手ではじき飛ばそうとする。
 その虫は……
「ちょっと待って!さわっちゃだめっ!」
 雄一は、自分でもおどろくような大きな声を出して、由美さんの動作をストップさせた。
「へ?」
 由美さんは丸い目。
「それ、手でさわると大変なことになります。ティッシュありませんか?」
「え?ええ、ああ」
 由美さんは気持ち悪そうに、動き回る虫を目で追いながら、ポケットティッシュを一枚取り出した。
 雄一は受け取るとねじってとがらせ、その虫の歩く頭の前に、先っぽを置いた。
 由美さんはイヤそうな目でえり元を引っ張り、雄一の作業を見つめる。
 

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