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【大人向けの童話】謎行きバス-09-

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 由美さんが言い、雄一はまたしても、みんなして見つめられる。
 部外者とか関係者以外とか、そんな言葉が、雄一の頭の中をぐるぐる。
 雄一は、いたたまれなくなった。
「あ、あの、ごめんなさい!」
 さけぶように言い、頭を下げる。
「ぼく路線バスとカンチガイして……その、さようならっ!」
 雄一は思い切り走り出す。追いかけられても、つかまらないように。
 しかし、丸顔ぼうず頭の男性は、追いかけるでもなく、クルマの窓からニコニコ笑って。
「まぁ待って待って。走って行ったら何日もかかるよ」
 と、雄一の背中に向かって言った。
「え?」
 雄一は立ち止まってふり返った。
 なに?ここそんなに遠い……。
「君のとこから二つとなりの県だよ。後で送っていってあげる。まぁ、まずは落ち着いてお茶でもどうだい。その前に朝ご飯は食べたかい?ずいぶんと早い出発だったはずだよ?」
 朝ご飯。雄一は言われて、さっき入ったおなかのスイッチが、ぐぅと音を立てて反応。
 由美さんが学校へ行こうというのだ。8時かそこいらであろう。
 虫は虫でも腹の虫が聞こえたようだ。丸顔の男性はハッハッハと笑った。
「家には連らくしてあげるよ。心配いらない」
「そうそう。私に付いた変な虫取ってくれたお礼もしたいしさ。やっぱ男の子は女性の味方でなくちゃ」
 由美さんが、マルカメムシを放したススキの方を指差す。お礼と言うほどでは……。
「ほう、ぼくは虫が平気か」
 男の人は丸い顔がますます丸く見えるニコニコ顔で言った。とにかくずっとニコニコしている。それが雄一の印象。
「……ああ、はい」
「ところで由美ちゃん学校大じょうぶかい?」
「え?あ、大変、行ってきます!」
 由美さんは、うで時計を見て目を丸くすると、あわててしせつの建物にかけもどった。そして、クツにはきかえ、スポーツバッグを背負って、道をおくの方へと、走って行った。
 

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