【大人向けの童話】謎行きバス-10-
「気をつけて」
丸顔の男性は手をふると、雄一の顔をのぞき、ついでバスの運転士さんを見た。
「ちょっとクルマをしまってくるから。佐伯(さえき)さん、虫博士をぼくの部屋へ」
「かしこまりました」
バスの運転士さんが頭を下げる。
男性はクルマの窓から顔をひっこめ、バスの横を走って行った。
「どうぞ」
運転士佐伯さんが先に立って案内する。と、建物の中から聞こえる、大人数の「ごちそうさま」。
ワイワイガヤガヤとおしゃべりが聞こえ、お皿をガチャガチャ重ねる音。
「食事が終わったようですね」
佐伯運転士が言い、ほどなく、しせつの庭の方へ、たくさんの子ども達が飛び出してきた。まるで学校の昼休み。
何人かが雄一に気付いた。
足を止めて雄一を見る。よそ者に対する視線であり、〝かんげいするよ〟という感じではない。
佐伯運転士は建物のわき、ふつうの家と同じような形の、げんかんドアを開けた。
「尚子(なおこ)さ~ん」
佐伯運転士が呼ぶと、おくの方から、「は~い」という、〝おばさん〟の声がし、スリッパでスタスタ歩いてくる音。
「さ、上がって」
佐伯運転士は自らクツをぬぎながら、雄一に言った。
「はい。では……」
雄一がクツに手をかけると、前方、ろうかの向こうから、腰に前かけをした女性。
「はいはいはい……。あら、ようへい君は今日じゃないんじゃ……」
「あ、この子はですね……」
「雄一です。花村雄一」
雄一は名を問われているのだと理解し、そう言って頭を下げた。
学校名を告げ、5年生だと付け加える。
「あらまぁそれはそれは遠いところ…ようこそ、いらっしゃい」
「センター長の招待でね。申し訳ない。この子の朝食をセンター長の部屋まで」
「あ、はいはい」
尚子さんというその女性が、回れ右してもどって行く。
雄一は何で?という顔で佐伯運転士を見上げた
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