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【大人向けの童話】謎行きバス-11-

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「ぼくは、まちがえ……」
「いいのいいの。センター長が『部屋へ来てくれ』と言ったでしょう?ご招待じゃないか」
「はぁ……」
 別にフツーに、〝単なるまちがい〟と言ってもいいと思うのだが。
 背後に足音。
「おお、まだここだったかい」
 丸顔の男性。ということは、この人が、このしせつ、〝木の実センター〟のセンター長。
 一番えらい人。だからであろうか、太陽が高くなり、夏みたいな気温に上がってきているのに、紺(こん)色の背広を着、ネクタイもきちんとしている。
 と、書くと、ピシッとした服装みたいな印象だが、その実背広もネクタイもヨレヨレで、さらに背広は体より明らかに小さく、ピシッではなく、ピチピチ。
 丸顔のセンター長は、クツをぬいで上がった。
「さぁこっちへ。さぁさぁ」
 ニコニコ顔で急かされる。
 雄一は、背中をグイグイおされてろうかを歩き、右に曲がり、一番おくにある部屋へ通された。
 そこは、『センター長室』と、表札みたいに小さく書いてあるが、カタカナの役職とは裏腹に、入り口にはふすま。
 旅館の和室か何かみたいだ。雄一は思った。
 センター長がふすまを開く。
「さぁどうぞ。ここがぼく、木の実センターのセンター長、布引源一郎(げんいちろう)の部屋だよ」
 雄一はぽかんと、口を開けた。
 タタミの部屋に木が生えている。
 見まちがいではない。部屋の角のタタミが丸く切り取られ、そこから木の幹が顔を出し、枝葉がカベに沿い立ち上がり、天井(てんじょう)をおおうように広がっている。
「これ……」
「コナラだよ。建物を建ててから生えてきてなぁ、仕方なく」
 丸顔のセンター長は笑った。
 雄一は思わず見回す。確かにコナラである。クワガタなどがよく見られ、秋にはドングリが出来る。実際、9月とあって、もう緑色のドングリがあちこちで成長中。
 

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