【大人向けの童話】謎行きバス-12-
ちょっと待て。
雄一は目を窓際の一点で止めた。
枝の根元に、すま~した顔でへばりつき、じっと身を固めている、茶色のそいつ。
「何かいるかい?」
センター長がのぞきこむ。雄一は手をのばし、そいつをつまんだ。
細い枝を組み合わせて作ったような、〝線状〟とでも書けばいいか、昆虫(こんちゅう)。
ナナフシ。茶色の個体。雄一につまんで持ち上げられたせいだろう。〝私は枝です〟とばかり、胴体(どうたい)と脚をピンとつっぱって、じっとしている。
(〝私は枝です〟とばかり、胴体と脚をピンとつっぱって、じっとしている@ウチの娘)
「良く見つけたねぇ」
センター長はニコニコ。
「本物初めて見ました……」
雄一は手のひらにナナフシを乗せた。ナナフシは6本の脚で手のひらに立ったが、それはそれでそのまま動かない。あくまで枝のつもりなのだ。
センター長は、手のひらのナナフシを、観察するようにじいっと見ると、上の方を見上げた。
「あそこから入ったんだな」
見れば天井板にも一部穴が開いている。この木の枝は、そこからさらに外へ出ているということか。
「ドングリが熟すとリスも来るよ」
「リスですか……」
すると、ろうかを歩いてくる足音。
「はいはいお待たせしました。お父さん、座卓(ざたく)出しておいて下さればいいのに」
尚子さんである。お父さんと呼ぶからには、センター長とは親子、いや、年が近いっぽいからご夫婦なのであろう。手にした四角いおぼんには、朝ご飯一式。
と、手首には黒い……
雨ガサ?
「いやぁすまんすまん、ほれ、この子がこれを見つけてね」
センター長の示した雄一の手のひらを見、尚子さんはまゆをひそめた。
「……あらヤダ動いた。何これ虫じゃない。いやいや。やめて」
「どうもうちの女神たちはダメだなぁ」
センター長は引き続きニコニコしながら、おし入れのふすまを開け、四角い座卓を引っ張り出した。
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