【大人向けの童話】謎行きバス-16-
なんてかわいそうな連中だろう。
「イヤなら追いはらえば済む話、殺すことはないと思うんです。人間だって、キライだというだけで殺されたら、たまりませんもん」
雄一は言い、言いながら、結局自分のしていたことは、不快か、そうでないかの線の引き方が人とちがうだけで、不快だから殺す、そのものだったと気付いた。
「ますます感心だなぁ」
センター長は、うんうんとばかり、大きくうなずいた。
「最近は何でも店で買えるからなぁ。虫を動くおもちゃ程度にしか思っていない。死んでも使い捨ての電池切れと変わらないんだ。そこ行くと君の虫のあつかい、接し方には、虫も同じ命を持った存在だという尊厳の意識を感じる。尊敬の気持ちを感じるよ。あ、いや、言葉が難しかったかな?要するに君は命を大切に出来る素敵な男の子だ」
「でもみんなには弱虫って言われますよ」
あまりにほめられたせいか、そんなことない、と思う気持ちが、かくしておいたその言葉を、思わず口に出させた。
このセンター長が、「どうせ虫」などとは、決して言わない人だと、よく分かったせいもあるだろう。
「おやどうしてだい」
センター長は座卓の上に身を乗り出し、雄一の目をのぞきこんだ。
ジムグリがちろっと舌を出し、ひじの内側をくすぐる。ひやりと冷たく、くすぐったい。
「実は……」
雄一は防空壕の出来事、そして、みんながバスをこわいと思っていること。だからこのバスに乗れば弱虫と言われないと思って……と、全部話した。
「そうだったのかい」
センター長は、にっこり。
そして、はしの止まった雄一に食事の続行をすすめながら。
「ウチはね、いろんな事情で、学校へ行けなくなったり、家にいられなくなったり、親がいなかったり。そういう子ども達が暮らすためのしせつなんだ」
センター長は、言った。
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