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【大人向けの童話】謎行きバス-17-

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 雄一は目が丸くなり、手先がビクッとふるえて、はしを落とした。
「ここは子ども達の家代わりさ」
 それを聞いて、雄一は思わずうつむいた。
「どうしたんだい?」
「ぼくそんなしせつに遊び半分で……」
「あっはっは。気にしなくていいよ。だれかウチの者が、君をじゃま者だ、と言ったかい?それにむしろ遊びに来てくれて大かんげいさ。今君が言ったような気持ちを……みんな思うのかなぁ、ウチに遊びに来てくれる子どもさんがいなくてね。そんなの、それこそ、ウチの子たちが〝かわいそう〟だよ」
 雄一は部屋のコナラのこずえの向こう、運動場で遊ぶ子ども達の姿を見た。みんなこうして見ているぶんには、〝かわいそう〟には見えない。
「それでね」
 センター長の言葉に雄一は目をもどす。
「せっかく来てくれたんだ。雄一君には今日一日、昆虫博士として特別講師をお願い出来ないかな」
 講師……それはすなわち。
「ぼくが先生、ですか?」
「そうさ。ここは見てのとおり山の中だ。虫はそれこそ山のようにいる。子ども達も虫が大好き。でも尚子さんも由美ちゃんも虫がキライでねぇ。私もある程度までは付いて行けるんだが、少しくわしいことになるとダメだし、そう毎日毎日の山を歩き回るわけにも行かなくてね。この体だし」
 センター長は見事なおなかをぽんぽんとたたいてハハハと笑った。
「君のご両親と学校には、私から電話しておく。今夜には無事にお宅までお送りするとね。9時からホールであいさつ会があるんだ。そこにいっしょに出てくれるかい?」
「何か……じゅ、授業するんですか?」
「いやいや。そんな、おぎょうぎのいいもんじゃないよ。子ども達がいろいろ聞いてくるから、つきあってやって。それだけさ」
 その程度なら。
 

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